犬も歩けば 〜スピッツ「こんにちは」感想

「こんにちは」はスピッツの15thアルバム「醒めない」の14曲目に収録されています。

   アルバムのラストを飾るにふさわしい名曲です。

   何度聴いても心がグッと熱くなります。

スピッツ「醒めない」

   まずなんといっても短い!

   たった2分21秒しかありません。

   しかしこの短いなかに熱い魂がギュッと凝縮されています。


   冒頭の歌詞が「また会えるとは思いもしなかった」ということから、これはどこかでばったり出会った再会の歌だということがわかります。

「元気かはわからんけど生きてたね」と言っているので、数年間音信不通だったのでしょうね。

   さらに「近づくそのスマイルも憎らしく」や「反逆者のままで愛を語る」「怖いから無難な演技もしたけれど」からは、なんとなく二人の関係性が想像できます。

   卒業式で告白してふられちゃったのかなーとか、女性の方が強そう、とか。なんとなく「ナナへの気持ち」のナナのイメージがありますね、なんとなくですが。


   この再会が主人公にとってどういう意味があるのか、どれくらいの価値があるものなのかはわかりません。

   背景が何も語られていないので。

   そもそも会えたのは女の子だと決めつけていますが、実は小学生のときにこっぴどく叱られた教師かもしれませんし。


   大切なのは「また会えた」ということ。そしてどうやって会えたかということです。


* *

   2回出てくるサビ(というかAメロ?)の歌詞がとても好きです。

   ちょっと長くなってしまいますが全て引用してみます。

「心に生えた足でどこまでも
   歩いていけるんだと気がついて
   こんな日のために僕は歩いてる
   おもろくて脆い星の背中を」 


   歩くことで彼は偶然の再会を果たしてしているんですね。

   その再会が具体的にどんな内容でどんな変化をもたらしたのかは触れられていませんが、「こんな日のために僕は歩いてる」と言っているので、きっと出会えたという事実が大事なんでしょう。

   そしてその出会いの瞬間をただただ歌い上げているということが、たまらなく良いです。

   うまく言えないのですが、頑張れと言われているわけでもないのに背中を押されている気がします。外に出てちょっと風に吹かれたくなる。


   それから「心に生えた足でどこまでも歩いていけるんだ」という歌詞が「ヒバリのこころ」から続く空飛び妄想ソング(!?)の系譜を受け継いでいるのもまたいい。

「ヒバリのこころ」では「目をつぶるだけで遠くへ行けたらいいのに」とひとりぼっちの妄想の世界に閉じこもっていた人間が、「空も飛べるはず」では「君と出会った奇跡」によって「自由に空も飛べるはず」と思えるようになり、「こんにちは」では「心に生えた足」に気づくことで空を飛ぶのではなく地面を踏みしめて「どこまでも歩いて」いく。

   そこには一人の人間の歳月をかけた成長や変化が感じられて、胸にジーンっと来るものがあります。


   意味や価値なんてどうだっていい。空想ではなくて、自分の足で歩いて歩いて何かと出会うこと、ただそれだけで素晴らしい。だって僕らが歩くこの大地は「おもろくて脆い星の背中」なわけですから。

   まさに「犬も歩けば棒にあたる」(良い意味の方の)です。

   スピッツだけに!

   ……そんなメッセージを僕は受け取りました。


* * *

   ここからは余談。


「こんにちは」を最初聴いたとき、ザ・ブルーハーツの「ブルーハーツのテーマ」を思い出しました。

   知らない人は「ブルーハーツのテーマ」を一度聴いてみてください。

   ……はい、全然似てないです。

   でも何か同じものを感じるんですよね。

   どちらも短くて力強いし、ライブやアルバムのラストにぴったりとハマる曲調だし。何より元気が出ます。

(「ブルーハーツのテーマ」に出てくる「あきらめるなんて死ぬまでないから」というフレーズが好きです。ときどき思い出しては救われました)


   あと、ハイロウズには「グッドバイ」という曲があります。この曲はデビューアルバムのオープニングナンバーなんですね。

   一方の「こんにちは」はアルバム「醒めない」のラストに収録されています。

   デビューアルバムの1曲目を「グッドバイ」で始めるハイロウズと、アルバムのラストに「こんにちは」と言うスピッツと。

    なんだかんだで感性が似ていてるな〜と思えてクスッとなるのでした。


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