誰が誰を汚したのか 〜スピッツ「スパイダー」感想 その2

   先日放送された「関ジャム」のスピッツ特集を観ました。
   川谷絵音さん(ゲスの極み乙女。)と杉山勝彦さん(作詞作曲家)がゲストで登場して、スピッツの音楽について語る、という内容でした。

   特に面白かったのが、「スパイダー」の歌詞についての杉山さんの解釈です。
   解説していたのは1題目の歌詞です。
   簡単に内容を書くと、こんな感じ。

   可愛い君は「ちょっと老いぼれてるピアノ」が好きです。
   それは普通の家庭にあるようなピアノではなくて、金持ちのおじさんの家にあるような古くて立派なピアノです。
   ここから連想されるのは、君は金持ちのおじさんの家に通っていて、金持ちのおじさんが好きということです。
   (一方の僕は地下室の蜘蛛なわけですから、社会的な地位は真逆?)
「洗いたてのブラウス」とは君を指す比喩であり、それが「汚されていく」わけですから、今まさに純粋な君がおじさんによって汚されようとしている。
   だから、僕はおじさんの手が届かない遠くまで君を奪って逃げようとする。

   全く想像もしていなかった解釈に驚きました。
   もちろん、これが正解ということはなく、あくまで解釈のひとつでしかないのですが、一つ一つのキーワードがしっくりハマっていて、否定もできない。
   本当にそうなのかも、って思ってしまいました。
   面白いですよね。

* *
   この話を聞いて思ったのが、「洗いたてのブラウスがいま筋書き通りに汚されていく」の部分で、誰が誰を汚しているんだろう?ということです。

   考えられるパターンは3つです。
  1.  僕が君を汚している
  2.  君が僕を汚している
  3.  他者が君を汚している
   3.が今回の杉山さんのパターンですね。
   僕がいつも想像していたのは1.か2.でした。

   1.は蜘蛛である僕が蜘蛛の糸を吐いて君をくちゃくちゃにするイメージです。名曲「おっぱい」のなかに「僕は君の身体中に泥を塗りたくった」という歌詞がありますが、あんな感じです。
   綺麗なものは汚したくなる、みたいな。ちょっとサディスティック。

   でもどちらかというと僕は2.の「君が僕を汚していく」のイメージが強いです。

   まず、地下室の蜘蛛ですが……、蜘蛛は不気味であると同時に純粋だと思うのです。
   何故なら蜘蛛は恋を知らないから。
   まして地下室は外界から隔たれていて、汚らわしい営みから遠い。無菌室のようなところです。

   そんな地下室の蜘蛛が君に出会い恋をするとどうなるか。
   無菌だった地下室に少しずつ外の空気が入り込んでくる。
   洗いたてのブラウスのように純粋だった蜘蛛の心は、恋に悩み、妬みや嫉みに染まっていく。だんだん君に支配されていく。(黄金色の坂道で加速したら二度と戻れない)
   そしてその変化に耐えきれなくなって蜘蛛は地下室を飛び出し、「もっと遠くまで君を奪って逃げる」行為に出るわけです。

   汚されていく=恋に溺れていく=君に支配されていく、というのが僕が想像したことでした。

* * *
   こんなふうに、スピッツの歌を聞いて物語を空想するのって楽しいですよね。(解釈という言葉は堅苦しいから、想像や空想のほうが僕は好きです)
   どんな想像をしても答えなんてないし、仮に何か基準があるとしたら正しいかどうかではなくて、面白いかどうか、な気がします。

「可愛い君」「ちょっと老いぼれているピアノ」「地下室のスパイダー」「洗いたてのブラウス」「ハート型のライター」といった草野さんが用意してくれたピースを使って、自分なりに物語を想像してみる。
   パズルのピースが意味深な記号や難解な単語ではなくて、誰にでもわかる言葉やかわいい言葉でできているのが素敵です。
   最初は耳障りのよい音(言葉)をそのまま楽しんでもいいし、繰り返し聞くうちに、想像で補完したり、言葉を組み立てなおしたりして、自分だけの世界をつくってみてもいい。

   そして、もしもスピッツ好きの人と話す機会があったなら、お互いのつくった世界を見せあって、共感したり驚いたりする。
   そういう楽しみができるのもスピッツの歌の魅力のひとつだと思います。