「君が思い出になる前に」はスピッツの4thアルバム「crispy!」の4曲目に収録されています。
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僕はロビンソンのブレイク後にスピッツを知ったクチなので、ファンになった当初はスピッツの初期作品はどれも難解で聴きづらいというイメージがありました。
しかし「君が思い出になる前に」は1回聴いただけですぅっと入ってきて、切なく心にしみました。初期の曲なのに!
ほどほど有名な話ですが、この頃草野さんは売れないことに悩んでいて「Crispy!」は売れ線のものをつくろうとしてポップに仕上げたそうです。
この話をあとで知って、どうりで聞きやすいわけだと納得しました。
それにしても売れようとして作ったシングル曲の1つがミディアム・バラードというのもなんだか微妙な話です。
バラードってヒットしたら時代に残るけど、売れるまでに時間がかかるイメージがあるじゃないですか。他に何かなかったのかなとちょっと思わなくもないです。
とはいえ、聞いてすぐに染みわたる美しいメロディと、随所に散りばめられた切ないフレーズと、若くて青い草野さんの歌声との組み合わせは最強なので、人におすすめしやすいスピッツの初期の名曲だと思います。
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さて「君が思い出になる前に」はお別れの歌です。聴いていると切ない気持ちになります。
そしてちょっと足元がふらふらしてきます。
なんでかというと、ちょっと違う世界に入り込んだ感覚になるからです。
例えばこんな単語ーー「水の色」「風のにおい」「船」「坂道」「影」「光」「この世」「生きた意味」「虹」
一つ一つはどうってことないのですが、これらが全体にばらまかれて作り出された世界からは生活感のようなものが感じられない。
この歌のなかの君と僕は、メルヘンやファンタジーあるいは、向こうの世界というか、こことは位相の違う世界に住んでいるような気がします。ふわふわしてる。
では、ふわふわとしたイメージ(空想)だけの歌なのかというとそうでもない。
くっきりとしたディティールもある。
それは「君」に関するところです。
「はみだしそうな君の笑顔」「君の耳と鼻の形がいとおしい」「子供の目で僕を困らせて」など。君の姿がはっきりと浮かんできます。いや、聴いている僕らにとってはまだぼんやりなのかもしれません。
しかし、確実にこの歌の主人公にとっては、つきあっていた頃の「君」の姿が目の前にありありと浮かんでいるのではないでしょうか。
おそらく草野さんは、ここで歌われている以上に明確な背景や物語を想像していて、その物語から一部を切り出して歌にしているのではないでしょうか。
ふわふわとした世界のなかで、君だはくっきりとした輪郭を持っている。そのアンバランスな感覚がこの歌の魅力なのだと思います。
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突然ですが「君が思い出になる前に」の女の子ってかわいくないですか?特にサビの部分。
サビの歌詞を書き出してみます。
「君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて
優しいふりだっていいから 子供の目で僕を困らせて」
まず「もう一度笑って」とお願いしたくなるくらいなのだから、きっと笑顔が可愛くて素敵なのだと思います。
そして「優しいふりだっていいから」と言っているので、優しいふりのできる大人な女性の面がうかがえます。
それでいて「子供の目で」と言っちゃうわけですから、無邪気で子猫のようでもある。
知的な大人の女性のようであり、無邪気な年下の女の子のようであり、笑顔がとってもかわいい、となると、萌え要素詰め込みすぎで、そんな子とつきあえたら幸せすぎる!と十代の僕は歌詞を見ながら悶えて転げ回っていました。
まあ歌の中では別れちゃうわけなので幸せかどうかはわかりませんが。
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