蚊と桃源郷 〜スピッツ「探検隊」感想

「探検隊」はスピッツの13thアルバム「とげまる」の2曲目に収録されています。


   タイトルの通り、冒険譚のような歌詞が多いです。
「イカダに乗って」「すべて謎だらけ」「果ての果てをめざせ」「巨大な街の地下」「竜巻、雷、群れをなす虫」など。
   ドラえもんの映画「のび太の大魔境」や、久生十蘭の「魔都」を彷彿させ、人類未踏のジャングルや東京の地下に張り巡らされた地下迷宮を冒険しているような気分になります。

   もしかしたらこれらは人生や恋愛の暗喩なのかもしれませんが、そのまま素直に冒険ものの小説のように読んでみるのもいいのではないかと思います。難しいこと抜きで。
   他のスピッツの歌詞にはない面白さがあります。

* *
   10年以上前に北海道を目指して自転車で一人旅をしていたときのことです。
   その日は、山形県を走っていて、山のほうに少し入ったところにあるキャンプ場にテントを張って泊まりました。
   僕の他には四十代の男性が一人、車で来ていて、同じくテントを張っていました。
   夜、その男性からビールと焼酎をごちそうになって、飲みながら話をする機会がありました。
   以下は彼が話してくれたお話です。

   あるとき彼は北海道をカヌーで川下りをして、どこかの岸辺にたどり着きました。
   上陸したところで、大量の蚊に囲まれて困ってしまいました。
   そこでたまたま知り合った老人が火を焚いて蚊を追い払ってくれました。
   そのあと、老人は彼を家に案内します。
   その老人の家には温泉が引いてあり、その温泉がとても気持ちが良かったそうです。
   また老人はかつて酒豪だったため、各地の知人が酒類をたくさん家に贈ってきてくれます。
   しかし、今はアルコールが飲めなくなってしまい、お酒が家に大量に余っている。あってもどうせ飲めないからと言うので、好きなだけお酒を飲ませてくれました。
   お酒と温泉が最高だったので二泊も泊まったうえに更に泊まっていけと引き止められたのですが、彼は旅を進めたかったので断り、次の目的地へと旅立ったのでした。

   不思議な老人と温泉とお酒、というセットが、昔話の桃源郷のようでとても興味深かったです。(10年以上前に聞いたことなのでうろ覚えな部分は補正しました)

* * *
   お話のなかに大量のが出てきますが、僕が男性の話を聞いているときもが飛び回っていて、刺されないように気をつけるのが大変でした。
   また、翌日テントを片付けるときもがいっぱい寄ってきてやはり大変でした。
   ここから、夏の低山のキャンプ場はが多いからやめたほうがいい、という教訓を得ました。

   スピッツの「探検隊」のなかにもというか吸血生物が出てくる描写があります。
「群れをなす虫に血を吸われることもある」というところです。

   そんなわけで、「探検隊」を聴くたびに、北海道の不思議な老人の温泉や、一夜だけの知り合いと話をした山形のキャンプ場のことを思い出すのでした。
   あと、蚊。