ホロリ涙色のロック 〜スピッツ「ありがとさん」感想

「ありがとさん」はスピッツの16thアルバム「見っけ」の3曲目に収録されています。
スピッツ 見っけ


   タイトルはゆる〜い感じですが、内容はなかなかロックです。
   ベースがぐいぐい音を引っ張って、ドラムもがっつり鳴ってます。
   MVを見ると田村さんの持ってるベースのヘッドがなくなっています。(すごく目につく)
   田村さんがライブで暴れすぎて割っちゃたというのが巷での噂です。(嘘です。スタインバーガーというメーカーの製品らしいです)
   ベースのフォルムが変わっているところもふくめて、バンド演奏も魅力な一曲です。

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   歌の冒頭で「君と過ごした日々はやや短いかもしれないが」という歌詞が出てきます。
   僕はこの「やや」が好きです。

   君と過ごした時間は、短いのではなく「やや短い」と言う。「短い」でもいいはずなのにあえて「やや」と付け加える。
   この「やや」にはすごく主観がこめられている気がします。
   ほんとはとても短かったのに見栄を張って「やや短い」と言っているのかもしれないし、逆に、客観的にはものすごく長い歳月をともに過ごしたのかもしれないけれど、永遠ではなかったことが辛くて「やや短い」と言ったのかもしれない。

   この「やや」には人間臭さがあります。このたった一言があるだけで、主人公の心情のリアリティがグッと増します。

  ちなみに僕は、もしも彼女と別れることがあったら、「やや短かった」と見栄を張って言ってそうです。。。

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「やや短いかもしれないが」のあとには「どんなに美しい宝より 貴いと言える」と続きます。彼にとっての二人の関係はとても良いものだったことが想像できます。

   そんな彼がサビでは「ありがとさん」と「声にして投げ」ます。
   ただし、真っ先に「ありがとさん」というのではなくて「ホロリ涙にはふくまれていないもの」だから、声にして投げる、と言うのです。
   まるで「ホロリ涙」には、声にしなくても伝わるたくさんのことがふくまれていると言っているように聞こえます。「さみしい」「楽しかった」「お元気で」「さよなら」……
   それでも「ありがとう」だけは涙では伝わらなくて声にする。

   そこには涙でぐちゃぐちゃになるような重苦しい雰囲気はありません。
   もっと清々しい二人の姿が浮かびます。
   あたたかい思い出や前向きな力強さがあります。

「ありがとさん」は別れ歌ですが、別れの淋しさよりも、ともに過ごした日々のよさの方が心に残ります。
   こんなふうにともに過ごしてさよならができるのなら、何度でもまた人と出会いたいと思えてきます。