一人の夜は 〜スピッツ「君だけを」感想

「君だけを」はスピッツの4thアルバム「crispy!」の7曲目に収録されています。

   スピッツにはレアなバラード曲です。

   バラードは長くて重くなければならないと勝手に定義しているので、スピッツの数ある楽曲の中でバラードと言えるのは唯一この歌だけだと思っています。(もう一つあるとしたら「楓」かな)

「君だけを」の好きなところは2つです。

   1つ目は短いなかに「君」への思いが詰まっているサビです。
「君だけを 必ず 君だけを描いてる ずっと」

   短い!
   たったこれだけのサビを草野さんはゆっくりと思いを込めて歌ってくれています。
「えがい〜てる〜」に続くFu〜では、伸びやかな高音にゾクゾクします。
   ファルセットも相まって、草野さんの繊細な歌声をいつもの3倍増しで堪能できます。

   そしてなによりも「描いている」という言葉のチョイスが素敵です。
   思うでも、歌うでも、愛してるでもなく、描く、です。
   白いキャンパスに愛しい君の横顔を描くのかもしれないし、
   ノートの端に、君へのあふれる思いを言葉で描くのかもしれない。
   ただ思うのではなく、描く、という行為に、グッときます。

   描く!描く!描く!
   なんて力強い言葉だろう!

「僕はずっとずっと君だけを描いているから!これからも必ず!」
   などと十代のころにペンを片手に叫んでみたかった。
   いや、どんなシチュエーションだよって感じですが。

   そして、順番が逆になりますがAメロ。
   不思議なことに、こんなにもサビでは強く描かれている「君」が、Aメロでは全く出てきません。
   まるで「君」なんて本当はどこにもいないのではいないかというぐらいに。

   ラブソングとしてのパワーを十二分に発揮したサビとは逆に、Aメロでは「君」から遠く離れ、青年は一人です。

   そう、この歌の好きなところの2つ目のは、Aメロのどうしようもない孤独感です。

   言葉を拾っていきます。
   「街は夜に包まれ」「行きかう人魂」「大人になった悲しみ」「砕かれていく僕ら」「灯りともすこともなく」「白い音」「カビ臭い毛布」「一人いつもの道」「目を閉じて一人」「汚れたままのかけら」
   ーーどの言葉も重くだるい。悲しくさみしい。

   特に2題目がすごい。「一人いつもの道を 歩く目を閉じて一人」
   なぜ「一人」を2回も繰り返す!?
「君」がいる世界からあまりに遠い、このどうしようもない孤独感、すさまじいまでのひとりぼっちさ。

   でもこの孤独感がたまらなく好きです。

   僕らは、誰かを思う気持ちをうまく伝えれなくて、もどかしくて、歌に思いを託そうとするし、それと同じくらい、一人ぼっちの切なさや寂しさを誰かに共感してもらいたくて音楽にすがろうとする。
「君だけを」はそのどちらの場合も歌っている。

   そして、まあ、個人的な経験ではあるのですが、誰かを思って苦しいときと、ひとりぼっちでさみしいときはだいたい同じタイミングでやってくるので、この両面を歌う「君だけを」は最強かよと、思うのです。

   誰かを思う一人の夜は「君だけを」がよく似合います。