川と蜘蛛 ~スピッツ「プール」感想

「プール」はスピッツの2ndアルバム「名前をつけてやる」の6曲目に収録されています。

   幻想的で霧がかったようなメロディとサウンドが特徴です。
   ネットで読んだ情報によるとシューゲイザーを作りたくてできた歌だそうです。たしかにゆらゆらとして心地よいですから、シューゲイザーと言われると納得のいくものがあります。

   歌詞はなんと言っても初っぱなのAメロ(サビ?どっちでしょ)が印象的です。
   長いですが引用してみます。

「君に会えた 夏蜘蛛になった
   ねっころがって くるくるにからまって
   ふざけた 風のように 少しだけ揺れながら」

   たぶん蜘蛛と雲がかかっていて、夏とプールから入道雲が連想されます。
   さらに「からまって」は蜘蛛の巣ともかかっている。きっと二人はじゃれあって抱き合って、蜘蛛の巣にからめとられたように離れられなくなっているのではないでしょうか。

   イメージとしては、夏草が青々と生い茂った河原で、草の茂みに隠れて抱きあっている若い二人が浮かびます。空には入道雲が浮かんで、二人のすぐそばには蜘蛛の巣が張っていて、蜘蛛が二人を見ている。

   そういえば、井上靖の「しろばんば」のなかで、主人公の少年が近所のお姉さんとお兄さんと河原に遊びに来て、毎回途中でお姉さんたちに「チョコレートを買ってきて」などつまらない御使いを頼まれて、その場を外される、というエピソードがありました。(20年以上前に読んだのでちょっと思い違いはあるかも、ですが)
   それからしばらくしてお姉さんは懐妊するのですが、つまり、ふたりは「くるくるにからまって」いたわけですね。少年がいない間に。

   夏の空、入道雲、草むら、蜘蛛、逢い引き、性交……「プール」は官能的でエロいんだけどどこか田舎の牧歌的な雰囲気が漂っています。ぎりぎりで文学的というか。
   そんなところがとても好きです。

    そして「風のように少しだけ揺れながら」「霧のようにかすかに消えながら」と歌詞は続きます。これらからはあまり明るい未来を想像できません。おそらく二人はこの夏のあと、別れたのではないでしょうか。
   別離のあとに楽しかった夏の日を回顧しているのかと思うと、切なくなります。その切なさが幻想的なサウンドと相まって、よりいっそう「プール」を名曲にしています。

   ただ、自分の想像のなかでは舞台は川原か野原なんですよね。
   なんでタイトルは「プール」なんだろう。不思議です。


   最後に、ネットに書いてあった蜘蛛の解釈について。
   蜘蛛は八本足です。男女二人いたとしたら手足の合計も八本です。
   つまり、夏蜘蛛はからまりあった男女を表します。もっと露骨に言うと、セックスの隠喩です。

   ほんとかどうかわかりませんが、気づいた人、すごいな。
   そして歌詞、エロすぎ!