さりげないようで大胆な応援ソング ~スピッツ「けもの道」感想

「けもの道」はスピッツの10thアルバム「三日月ロック」の13曲目に収録されています。

「けもの道」は応援ソングになると思うのですが、堂々とそう歌っているわけではありません。
   応援ソングなら普通はAメロで、苦境に立たされて負けそうな”君”を描写したりしそうなものですが、そういうのはありません。また、夢がどうたら、とか、自分らしく何たらとかそんな説教じみたことも言いません。
   ちょっぴりサビで「あきらめないで」と言うくらいです。
   いかにも応援してます、という押しつけがましさがありません。(このさりげなさは、草野さんの照れ隠しなのかな)
   だけど、歌を聴いていると、スピッツから送られてくるエールが、びりびりと伝わってきます。

   まず音やメロディが力をくれます。
   冒頭の歪んだベースの音だったり、轟音で鳴り響くギターやドラムの音だったり。あるいはノイジーなABメロからクリアなサビにつながる展開の美しさだったり。とにかくエネルギにあふれています。

   そして、なんといっても歌詞です。歌詞が泥臭くも熱いです。

「東京の日の出すごく綺麗だな」ーー普通、朝日の美しさを称えるのに、東京は出さないですよね。イメージ的に、東京=大都会=汚れている、だと思うから。
   でもだからこそ、リアルさがある。東京の日の出を美しいと感じるときってどんなだろ、と考えたとき、何かじわっと熱くなるものがあります。

   それから「細胞全部に与えられた鬼の力を集めよう」ーー「鬼」ってダサくないですか。最初聴いたとき、僕は拒絶反応がありました。鬼はないなー、って。
   でも、これ以上に力が湧いてくるワードは他にないのではないでしょうか。
   弱くてちっぽけな自分のなかにも、鬼の力が潜んでいるのかもしれない。そう思えるだけで、グッと力が湧いてきます。気分的にはサイヤ人にだってなれそうです。

   こんなふうに「けもの道」の前半は決してかっこよくはないけれど飾らない言葉にあふれています。
   そしてサビに入ると、一気に世界はクリアになります。

「あきらめないで それは未来へ僅かに残るけもの道」
   草野さんがはっきりとしたメッセージ性のある言葉を歌うことってあまりないのではないでしょうか。だからこそ、このたった一言の「あきらめないで」が生きてくる。力が宿ります。

   それから「すべての意味を作り始める」と続きます。
   抽象的過ぎてぼやけていますが、実はけっこう重たいことを言っていますよね。
   そのまま受け止めるよりは、なんかかっこいいこと言ってるなー、くらいのノリで聞くと気持ちいいです。

   そして最後に「あまりに青い空の下」と、青空を描写しています。この言葉を聞くと、空を見ようと顔をつい上にあげてしまいます。
   上を向いて歩こう、とは言ってないのに、結果的にそうさせている。ずるい。

   僕が「けもの道」を聴いたのは、いろいろ辛くてぎりぎりで生きていたころでした。
   そんなときに、ちょびっと力をくれた歌です。鬼の力の100憶分の一くらいは出せたかな……。

* * *
   ところで、さりげなく、とか、押しつけがましくなく、とか、上では褒めてますが、「けもの道」は最後の最後に露骨に応援してます。
   フェードアウトしながら、「フレー フレー」
   めっちゃ旗を振ってるし!さりげないどころか、むしろ大胆だな!!