スピッツ「三日月ロック」アルバム感想

 2002年9月に発売された10枚目のアルバムです。
タイトルに「ロック」を冠していてるというだけで、気持ちが上がります。なにせスピッツはロックバンドですから!

 プライベートでは、大学を卒業して名古屋から地元の金沢に戻り、社会人2年目となっていました。会社生活で初めてのスピッツのアルバムとなります。
スピッツ 「三日月ロック」
2000年以降のアルバムで一番好きなアルバムは?と聞かれたら、タイミングによってブレはあるでしょうけど、かなりの確率でこのアルバムを答えると思います。

 まず、アルバム全体の完成度が高い。
 捨て曲がないという点では「名前をつけてやる」に近いですが、小粒な曲が多かった「名前~」と違い、「三日月ロック」は1曲だけで十分に心をつかむことのできる名曲が何曲もある。ファン人気の高い「夜を駆ける」、ライブで絶対盛り上がる「けもの道」、デジタルロックな「ハネモノ」、王道のうたもの「遥か」。
 なにより、このアルバムは第一印象が良かった。そして、その後、何度聴いても飽きることなく、最初の良い印象を保ち続けています。それって稀有な存在だと思いませんか?
(大体の場合、最初いまいちで徐々に良くなっていくか、最初はいいんだけど少しずつ色あせていくかのどちらかなので)

時、雑誌か何かで草野さんが、「9.11以降、以前のようなネガティブなだけの曲を作れなくなった」というようなことを話されていて、そのことに、少なからずショックを受けた記憶があります。

 本質的にペシミストな僕は、草野マサムネの描く、弱く儚い空想の世界に憧れていました。(救われていたと書くと恥ずかしいので書きません。)
 だから、スピッツの音楽は政治やリアルな世界から切り離された別世界にあると信じていた。(あってほしいと思っていた。)しかし、実際には決してそんなことはなくて、残酷な現実の攻撃を受けることで変貌する可能性がずっと潜在していた。それが9.11によって顕わになってしまった。
 ネガティブなだけの曲を作れなくなった = ネガティブなまま変わらないでいることは許されない、と言われているような気がしました。

 それよりも何よりも、自分の好きな、ネガティブだけどかわいい箱庭のような世界が消えてなくなってしまうんじゃないかと、ひどく心配になりました。

りかえって、アルバムを順々に聴いてみると、たしかに、このアルバムあたりから、内向的な歌詞が減ってきているように思います。
 初期では草野マサムネの個人的な妄想を言葉にしていただけのものが、徐々に言葉が外向きになっていっている。
 とはいえ、「三日月ロック」以降のスピッツがマッチョでワイルドになったということはなく、明るくポジティブな言葉を少しずつ織り交ぜながらも、草野さんらしい儚い世界観もあり、で結果的に音楽の裾野が広がったように思います。

スピッツ「三日月ロック」(Amazon)
   この「三日月ロック」はCDだけでなくレコード盤も持っています。
   レコード独特のノイズがスピッツのノスタルジックな一面とマッチしているので、休日にのんびりスピッツを聴きたいときには、よく針を落としていました。