魚になれない魚とか ~スピッツ「魚」感想

「魚」はスペシャルアルバム第2弾「色色衣」の4曲目に収録されています。


   FCイベントの「ゴースカ」の会場アンケートでは上位に入っており、ファンの間での人気も高いです。僕も大好きな曲です。
   メロディが綺麗ですし、歌詞も切ないですし、いつものやんちゃなロックとは一味違う大人な時間が全編を通して流れています。素敵です。


「魚」の歌詞には不思議な魅力があります。

   冒頭で「……わかりあえそうさ 今さらね」「恋人と呼べる時間を……閉じ込めた」と言っているので、付き合っていた彼女との関係はうまくいかず、終わりかけているのがわかります。
   夕暮れの海岸で、彼女と別れ話をしている、そんな情景が浮かびます。

   この歌を聴くたびに、いろいろ考えてしまいます。特に次の3つの歌詞が頭のなかでぐるぐる回ります。

「言葉じゃなくリズムは続く 二人がまだ出会う前からの」
「『きっとまだ終わらないよ』と 魚になれない魚とか」
「この海は僕らの海さ 隠された世界とつなぐ」

   どれも心に響く、というよりも、心をかき乱されるくらい僕のなかの何かを刺激します。

   言葉ではなくてリズムは続く、とはどういこうことなのだろう。
「歌は終わってもメロディは続いていてる」という言葉があった気がします(村上春樹だったかな)が、それともちょっと違う。ここで続いているリズムというのは、二人が出会う前から存在する「リズム」なわけです。なにより、メロディではなくてリズムというところにもっと原始的なものを感じます。

「魚になれない魚」がどんな魚なのかも気になります。
   魚になれない=まだ魚になっていない=魚の先祖に当たる生物?
   魚の前ということは、脊椎動物に進化する前の海の生き物?だとしたら、なにかゆらゆらとしたものだったり?
(シーラカンスは「生きた化石」と呼ばれていたと思うのですが、魚には変わりないのでしたっけ)
 
   あるいは「きっとまだ終わらないよと」と言った後に「魚になれない魚とか」と続けているので、「魚になれない魚」は「僕ら」のことを暗に指しているのかもしれません。僕たちはまだ魚にもなってない、だからまだ終われないよ、と。
   でもやっぱりなぜ魚なんでしょう。

   そして「隠された世界」というフレーズ。……それはなぜ隠されていて、どんな世界なのか。海とつながっているというと、生命の源のようなものを想像してしまいます。

* *
   なんとなくですが、「リズム」も「魚になれない魚」も「隠された世界」も同じ一つのものにつながっている気がします。なにかとても大きな流れのようなもの。

「魚」を聴いていると、ちっぽけな僕らの恋が世界の深奥につながってて、そこには地球の歴史が織り込まれているような気がして、頭がぼおーっとなります。

   まあ「いくつもの作り話で」と歌っているので「壮大な法螺でした」というオチなのかもしれませんけどもね。