かわいい箱庭のなかで ~スピッツ「若葉」感想

「若葉」はスピッツの13thアルバム「とげまる」の12曲目に収録されています。

   タイトルや歌の内容からすぐに想像するのは、旅立ちと卒業です。季節は春の初めでしょうか。
   囲まれた柵の外へと一歩踏み出す瞬間の、不安と清々しさが入り混じった気持ちを感じ取ることができます。
   初見ではいつも”はてなマーク”がいっぱいあふれてよくわからないスピッツにしては珍しく、聴いてすぐにピンっときた名曲です。

   まず歌の盛り上がり方が素敵です。
   アコギ(とマンドリン)をバックに草野さんが語り掛けるように歌い出し、徐々に音が大きく広がっていく構成なのですが、オーケストラを起用した大袈裟な展開ではなく、あくまでバンドサウンドのなかでの広がりなのがいいです。
   ほんの少しだけ広い秘密の部屋に案内されたような、可愛さとあたたかさがあります。

   それから、光と影が揺らめいているような、あるいは光のなかに影がひそんでいるような歌詞が好きです。
「優しい光に照らされながら」「ずっと続くんだ」「花咲き誇る頃」「君の笑顔で晴れた」「涼しい風」「鳥の歌声」「無邪気でにぎやかな時ん中」「可愛い話」など、1題目と2題目では、まるで箱庭のなかのように世界は優しくてかわいいものだけであふれています。
   それが3題目になると、旅立ちや別れのときが近づき、未知への不安が影となって現れてきます。「予測できない雨」「君の知らない道」などです。

   ただ、こうした影は3題目の旅立ちを待たずして、1,2題目の世界にも見え隠れしています。
「ずっと続くんだ」と信じていたのではなく「思い込んで」いたり。可愛いことやもので満たされているのではなく、「可愛い話ばかり 転がって」いたり。(「話」はどうとでも書き換えられますし)
   なによりも「一人よがりの意味」を知らなかったのではなく「知らないフリをして」いるわけですから。
   きっと、ここが箱庭に過ぎないということをみんな自覚している。
   自分たちのためだけに用意されたあたたかい世界なんてないと知りながら、影を見ず光だけを見るようにして、みんなで必死にかわいらしい箱庭を保とうとしている。そんな気がします。

   それがダメだと否定する気もなくて、むしろうらやましくすらあります。
   時間が来たら終わる世界だとしても、その時間までのあいだ、それを作り上げ守り続けることにはきっと意味や価値がある。「思い出せる いろんなこと」があることはその後の人生に温もりや力をくれるはずです、たぶん。

   それにほら、この歌の彼(彼女)は、最後にはバカげた夢に近づこうと歩き始めるわけですから。
   ここで過ごした時間が足を引っ張ることはなく、前へと進んでいくのです。