秋の虫が鳴いてる ~スピッツ「鈴虫を飼う」感想

「鈴虫を飼う」はスピッツの2ndアルバム「名前をつけてやる」の4曲目に収録されています。
   作詞は草野さんですが、作曲は三輪さんです。三輪さんの他の曲同様、この曲もメロディが綺麗です。

   2ndアルバムはドライブ向けなアップテンポな曲が多いですが、この曲はまったりとしていて、とろぉーんとした気分になります。
   タイトルどおりかわいらしい歌という一面もあれば、かなりダークな一面もあり、明暗がうまく混ざりあって良い味を出しています。

   かわいいサイドはAメロとサビが担当しています。歌詞もメロディもふんわりとしていてどこかファンタジーめいています。「天使から10個預かって」や「鈴虫の夜 ゆめうつつの部屋」などです。
   一転してBメロはダークサイド担当です。クールというか退廃的です。「乗り換えする駅で汚れた便器に腰かがめ」や「油で黒ずんだ 舗道に へばりついたガムのように」などです。
   この暗く重いBメロがあるからこそ「ゆめうつつの部屋」と歌うサビが鮮明に浮かび上がるように思います。

   虫カゴ以外に何もない暗い部屋。そこにはくたびれた青年と、虫カゴのなかでハネを広げる鈴虫だけがいて、テレビの音も音楽もなく、ただ鈴虫の鳴き声だけが響いている。
   きっと昼間は青年も外の世界であれこれあったのだと思います。でも夜、鈴虫を飼っている部屋にいるときだけは外の世界から切り離されて静かな気持ちでいることができる。鈴虫が澄んだ音色を発するたびに暗い部屋にぽっと光が灯るような。

   初めてこの歌を聴いたときは冒頭に出てくる「天使」って誰だろう、どんな娘なんだろうとずっと邪推していたのですが、草野さんが虫好きと知ってからは、天使が誰かというよりも「天使から預かる」という比喩をしたくなるくらい鈴虫がすばらしい生き物、ということなのかなと思うようになりました。
   なんでも恋愛につなげるよりは、ただ鈴虫のことを歌った、鈴虫を愛でるためだけの歌があってもいいのかなと思います。いや、自分が年を取っただけなのかもしれませんが。どうなんでしょう。

   いつもは歌を流しながら感想を書いているのですが、今日はせっかくなので音楽を止めて書いてます。
   窓の外から秋の虫の鳴き声が聞こえてきてちょっぴり「鈴虫の夜 ゆめうつつ」な気分です。
   といっても、聞こえているのがコオロギなのか鈴虫なのかそれとも別の虫の鳴き声なのかさっぱりわからないんですけどね。