うずうずとする感覚、夕焼けは恋に似ている ~スピッツ「夕焼け」感想

「夕焼け」はスピッツのスペシャルアルバム「おるたな」の7曲目に収録されています。

   初めて聴いたのはシングル「群青」のカップリング曲としてでした。派手さこそ無いですが心に沁みるものがあり、しんみりとあたたかくて、聴きながらぼおーっと西の空を眺めていたくなります。
「さざなみCD」に収録されなかったことを知ったときは残念に思いましたが、きらびやかな「さざなみCD」よりも、ふんわりとした「おるたな」の方が曲の雰囲気と合っているので、結果的にはこちらに収録されてよかったのではないかと思います。


   夕焼け、夕暮れ、黄昏ってなにか特別な感じがします。なんか不思議ですよね、昼でも夜でもないし。あいまいで、不安定で、それでいて色や匂いの変化が鮮やかで。
   寂しい青春を送ったので、残念ながら、好きな人と並んで伸びた二つの影、みたいな甘酸っぱい思い出はありませんが、子供のころに過ごした夕暮れのことは思い出すことができます。

   学校から帰ってランドセルを置いて、公園や田んぼ道を友達とはしゃいで走り回っていたら、いつのまにか遠くの空が茜色に染まり、周りの景色の色が変わっていた、という誰にでもあるような、あの経験です。
   まだまだ家には帰りたくないのだけれど、体は疲れて動きが鈍くなっていて、ぼんやり遠くの夕焼けを見ていたら、幾重にも重なった雲の複雑な形や不気味なくらいの鮮やかなグラデーションや夕暮れ特有の匂いや音が、目や耳や皮膚から入り込んでくる。そんなとき”世界”の何かに触れた気がして、あたたかいものがこみ上げて、体がうずうずと震えて……という記憶を、なんとなく覚えています。
   夕暮れどきに感じるあの独特の、そわそわしたような、うずうずしたような感覚って、今思うと、恋をしているときに似ている気がします。

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   スピッツの「夕焼け」は恋の始まりのころというよりも、もう少し恋が落ち着いた頃の歌だと思いますが、それでも聴いているとなんだかむずむずします。「言葉でハッキリ言えない感じ」がします。
   体の中やら皮膚やらを言い表せない感覚がうごめいて、恋をしているような、夕暮れに佇んで遠くの空を見ているような気持ちになります。なんとなくですが。

   それにしても、「好きでは表現しきれない」という歌詞のあとに「例えば夕焼けみたいな サカリの野良猫みたいな」って歌詞が続くのはすごいですよね。
   言われてみるとそうかなぁという気になりますが、どういう感性を持ったら、その2つを並べて考えることができるんだか。ほんと、「訳わからん」です。

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   余談ですが、最近、「月がきれい」という中学生の初恋を描いたアニメを知りました。そこに描かれている初々しさや純粋さやひた向きさにすごく感動してしまい何度も見返しています。見ていて気づいたのは、作中で印象的な場面は黄昏どきのことが多いということです。
   陽がだんだんと落ちてきて、空も建物も道もみんな黄金色に染まった美しい黄昏の世界で、主人公の男の子と女の子は初めてのデートを楽しんだり、夏祭りに出掛けてキスをしたりします。それから最終回の苦しくて切ないシーンや、最後の、わあーっとなるシーンも黄金色なわけです。(ネタバレ回避)
   まるでそこに夕暮れの魔法がかかっているみたいに、画面のなかのシーンの一つ一つに引き込まれてしまいました。