穏やかで美しい日常と不自然な宇宙 ~スピッツ「田舎の生活」感想

「田舎の生活」はスピッツのミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」の2曲目に収録されています。

   マニアックな曲が多い「オーロラ」のなかではキャッチ―な曲なので好きな人も多いのではないでしょうか。僕も好きです。笑

   Aメロは珍しい4分の5拍子です。変拍子に乗せて、すごくリアリティのある言葉で淡々と日常生活を描写しているのが印象的です。
   冒頭の「なめらかに澄んだ沢の水をためらうこともなく流し込み」なんて、聴いた瞬間にのどかな田舎の情景が浮かんで、一瞬で美しい自然のなかに心がワープします。「野ウサギ」→「笹百合」→「またたく星の群れ」の流れもよいですよね。ほんとの田舎に来ている気分にさせてくれます。今だと「のんのんびより」とか想像してしまいそう。(あ、アニメ好きがバレてしまう)

   ただ、田舎の日常の描写がリアルに響けば響くほど現実感が失われていきます。いつもの草野ワールド的な宇宙言語が一切出てこないのに、逆にファンタジーというか白昼夢を見ているような、空間がねじれて別の宇宙にいるような、奇妙な感覚に陥ります。

   次に、サビを見てみます。サビではリズムが4拍子に変わります。
   サビの歌詞は通常営業の草野さんで、ネガティブで切ないです。「必ず信じていた幻」「ネガの街は続く」「あの日のたわごと 銀の箱につめて」そして「さよなら さよなら いつの日にか君とまた会えたらいいな」
   シンプルな「さよなら」という言葉や、草野さんらしい「銀の箱」「ネガの街」というメタファーで、”君”との別離を歌っていて、胸が苦しくなり、Aメロの穏やかな世界とのギャップを激しく感じます。

   また、Aメロは馴染みのない4分の5拍子に対して、サビは自然な4拍子というリズムの違いも、サビの世界とAメロの世界との間に明確な境界を引いているように思います。
   Aメロの日常は不自然で、偽りのもので、サビの方が自然で、実は本物なんだという気がしてきます。Aメロは過去にあった実際の日々を回想しているのではなくて、そうあって欲しかった世界を歌っているのかもしれません。
   一度そういう観点に立つと、Aメロの「根野菜の泥を洗う君」や「縁側で遊ぶ僕らの子供」という穏やかで微笑ましい情景が、明らかにこれって脳内宇宙じゃんって悲しくなって、うわー、やめてくれーって叫びたくなります。

   それでも、歌詞も旋律も美しいので、ついつい何度も聴いてしまいます。静かに泣きたい気持ちになりたいときに聴くのにいいと思います。(あくまで気持ちだけ……)

* * *
   ところで、4分の5拍子ってうまくリズム取れます?僕はどうも苦手で、ギターで弾くときは、1拍目にジャーンって弾いて終わらせてごまかしてます。アルペジオとかたぶん無理。何回つま弾いたかわからなくなりそう。
   キーもちょうどよくて、弾き語りに持って来いの曲なので、部屋でこっそりよく歌うんですけど、夜中にギターの音が、ジャーン……ジャーン……
   あ、なんか除夜の鐘っぽいかも。もの悲しいですね。……もっと練習します。