宮廷の王子様みたい ~スピッツ「会いに行くよ」感想

「会いに行くよ」はスピッツの11thアルバム「スーベニア」の12曲目に収録されています。

   初めて聴いたとき、ストリングスが目立ち過ぎキラキラ感が強いことから、あまり好きではありませんでした。また、会いたくても会いに行かないのがスピッツだろ!というイメージ(どんな偏見だ)もあり、「会いに行くよ」というタイトルからしてスピッツらしくない、馴染めない印象を持っていました。

   しかし、あらためて聴いてみると、出だしはアコースティックギターだし、バックのバンド演奏もしっかりしていますし(当たり前ですが)、Aメロの穏やかな曲調から雄大なサビへの展開も他になく、聴きごたえがあります。
   歌詞を見てみると「届くはずない想いばかり」「ボロボロのシャツ」「孤独な雲」「弱気なネコ」など、ネガティブで共感したくなるフレーズが多く、いつもの草野さんです。

   最初の印象が悪かったのが不思議なくらい、いま聴いてみると好感触で、良いイメージしかありません。
   唯一、「どんな夢も叶えてみせる」という歌詞が強気でちょっと珍しいかなと思いました。

* * *
   何回か聴いていると、この歌の持つ他にないきらびやかな雰囲気が、宮廷で流れる音楽のように聴こえてきました。

   宮廷ってなに?どんな?と細かくつっこまれると困るのですが、例えば中世ヨーロッパの田舎と都会の中間くらいの街に、そこそこ大きめの宮廷(舞踏館?)があって、夜の音楽会が開かれています。そこに吟遊詩人「クサノー・マサムネイ」がふらっと現れて、宮廷楽団の演奏をバックに「会いに行くよ」を歌い出すわけです。
   そしてその場にいた貴婦人や貴族の娘はみんなクサノー・マサムネイの歌にうっとりと心奪われる。女性はみんな、マサムネイが「会いに行くよ」と自分に向かって語りかけてきている気になる。これが漫画なら目はハートマークです。
   で、いっしょに来た男連中は面白くないので、口を3の字にして、黙って嫉妬の暗い炎で胸を焦がします。ーーマサムネイに女性陣のハートを総ざらいされたから?いえいえ、違います。素晴らしい歌声のマサムネイが「会いに行くよ」と自分達(男達)に向かって歌ってくれないと思って拗ねているのです。そんなことないのにね。

   そしてただの吟遊詩人と思っていたクサノー・マサムネイは実はとなりの国の王子様で、ときどき変装してこっそりお城を抜け出しては、好きな場所で自由に歌を歌っているのでした。

   そんな風に僕にはこの歌がきらきらとして聞こえます。
   って、なんの話だ、これ。