一人の部屋の隅っこ ~nano.RIPE 全アルバム感想 その2

   時間が空いてしまいましたが、nano.RIPEのアルバム感想の第2回目です。前回はバンドの紹介のみで終わりましたので、今回がアルバムの感想(=本編)になります。

   nano.RIPEはこれまでにオリジナルアルバム5枚とベストアルバム1枚を出しています。そのうちのオリジナル5枚について簡単な紹介と感想を書きます。
nano.RIPEのアルバム

1st "星の夜の脈の音の"

   デビューアルバムです。なんだかんだで、このアルバムが一番好きかもしれません。
   ポップで聴きやすい曲があり、ザクっと胸を刺す激しい曲があり、ライブで跳ねられる曲があり、しっとり聞かせる曲があります。そしてそれらが全て4ピースバンドの音でできていて、nano.RIPEの全てが詰まっています。

   アルバムには14曲も収録されていますが、その半分以上が好きな曲です。
   美しく激しい①「セラトナ」、代表曲ともいえるポップな②「ハナノイロ」、ギター1本の弾き語りも似合っている優しい⑤「ハイリープ」、超高速の⑥「面影ワープ」と、前半だけでも名曲あるいは良曲があふれてます。
   また、「セラトナ」のサビには「もがいたって足掻いたって沈んでゆくばかりだ」というフレーズがあり、こうした痛みの伴う歌を1作目の1曲目に持ってきているというところに、nano.RIPEというバンドの特徴や方向性が示されているように思います。

   後半も良い曲が続きます。
   ⑦「ハッチ」はアルバムを聴きこむうちに好きになりました。張りあげるように歌う「狭い世界で夢見ていた 囲まれた壁にもたれ」というサビがいい。孤独な魂が外の世界を求めてもがいてる。
   ラスト4曲はどれも好きです。⑪「パトリシア」は静かななかに力強さがある。「愛しているのコトバの意味を少しずつ知る」なんてフレーズは普段はあまり好きではないのですが、この曲に関しては妙な説得力を感じます。
   ⑫「細胞キオク」はまだ眠い朝の光のなかで聴いていたい。⑬「世界点」は言うことなしの名曲。「いつかそれさえも消えてしまうのならせめて今」という歌詞が痛く、胸に響きます。⑭「てのひらのマリー」は明るいアップテンポな曲で、ラストがしめっぽくならずにカラッと終わるのがいいです。

   CDの帯に、スピッツの草野マサムネさんからのコメントがあります。
   美しく詩的な言葉でアルバムを評しています。自分がアーティストだったら、こんな言葉をもらえたらものすごくうれしくなる、そんな素敵な言葉です。

2nd "プラスとマイナスのしくみ"

   1stで作られたnano.RIPEの世界観をうまく引き継いで、更に完成度を引き上げたようなアルバムです。
   おすすめは①「うつくしい世界」、③「絵空事」、⑥「ナンバーゼロ」、⑦「よすが」、⑨「ページの中で」、⑩「リアルワールド」、⑬「グッバイ」です。

   ①「うつくしい世界」タイトルの通り旋律が美しく、1曲目から引きつけられます。
   ③「絵空事」、⑩「リアルワールド」はアニメのタイアップ曲です。ライブでは⑪が始まるとタオルを頭の上でくるくる回して盛り上がります。
   ⑦「よすが」は静かに始まりじわじわと盛り上がっていく展開がいい。歌詞も綺麗です。⑨「ページの中で」はベースラインがかっこいいです。⑬「グッバイ」は「さよならしようか 昨日までの僕らに」という詞が清々しい。

   しかし、なんといっても一番好きなのは⑥「ナンバーゼロ」です。激しいメロディとサウンド、切なく痛い歌詞。nano.RIPEの持つポップさとダークさが最もバランスよく融合した歌なのではないかと思います。「泣き出した夜の隅っこで向こう側のきみを思えば ヒトリだってどこか重なって 溶けながら混じる」というサビに心打たれます。「超」がつく、おすすめ!


3rd "涙の落ちる速度"

   アルバムを5枚目まで聴いた後だと、3枚目のこのアルバムに1つの区切りがあるように思います。nano.RIPEのポップな部分を突き詰めた1つの到達点なのではないでしょうか。ほぼどの曲もおすすめです。

   ①「ウェンディ」、②「タキオン」はどちらもライブ映えする曲。そして、③「なないろびより」は田舎アニメのOP曲ということで、まったりしたイメージがありますが、実際にはものすごくライブで盛り上がります。なんていうか、ギター音が気持ちよくて、ぴょこぴょこ飛べるのです。
   ⑤「もしもの話」は、サビの歌詞が大人になった自分には凄く突き刺さる。「何かを手に入れるために何かを手放すなんてことを続けても……」とか、うぐぐってなります。

   後半は⑦「ハロー」、⑨「ツマビクヒトリ」、⑬「影踏み」がよいですが、なんといっても一番好きなのは、⑪「月花」です。この曲は最初はノーマークでしたが、聴くうちに、じわじわと評価が上がってきました。アコースティックなサウンドをバックに、夜から朝にかけてを歌っているのがいい。「守れるように祈る夜明け」という最後の歌詞が印象的です。

   初回盤には、他にB面集の「アマヤドリ」とアコースティック集の「ミズタマリ」が付いてきました。正直言って、これ3枚バラバラに売ってもよかったんじゃね?っていう素晴らしい出来です。「夢路」のオリジナル版とアコースティック版の両方が聴けるのもすごく嬉しい。「夢路」いいですよ、聴くたびに泣きそうになります。

4th "七色眼鏡のヒミツ"

   方向性にちょっと迷っているのかなという印象のアルバムです。最初聴いたときの感想はあまりよくありませんでした。これまでの3作に比べて、メロディの美しさやバンドサウンドの弾けっぷりが足りない。いや、悪くはないんですけど、ここまで一作ごとにあった成長や発展がなかったように感じました。
   それでも好きな曲はもちろんあります。①「こたえあわせ」、⑥「神様」、⑬「空飛ぶクツ」です。⑥は和風テイストが新鮮ですし、⑬はメロディも歌詞も前向きで疾走感があり、気持ちがいいです。

   また、スピッツファンとしては「ホタル」のカバーが入っているのもうれしいところです。マイナー調のロックをnano.RIPE流にかっこよく昇華していると思います。オリジナル版よりもハードになった代わりに、闇にポッと灯るような切なさが薄らいでいるのが惜しい。


5th "スペースエコー"

   タイトルのつけ方が今までの詩的な言い回しではなく、カタカナのワンフレーズに変わっているというところに、転換点を感じます。
   今まで以上に「夜」のイメージが強く、ダーク成分が高めのアルバムに仕上がっています。このアルバムを聴いた後にふり返ると、4枚目の迷いのある出来も、ここへとつながるステップのうちだったのかなと思えます。
   ダークと書きましたが決して暗すぎたり、重くて聴きづらかったりするわけではありません。むしろ、ものすごくかっこよくて力強いアルバムです。5枚目が一番好きという人も多いのではないかと思います。

   おすすめは①「ルミナリー」、③「ライムツリー」、⑤「こだまことだま」、⑧「日付変更線」、⑨「スノードロップ」、⑪「イタチ」、⑭「終末のローグ」です。
   このなかでは、③⑨⑪が特にこのアルバムらしい曲といえます。サウンドもヘヴィーだし、ハードでかっこいい。
   また、アルバムのなかで最も好きなポイントは⑧→⑨の流れです。アルペジオが美しく、歌詞が切ない⑧「日付変更線」から、激しいロックな⑨「スノードロップ」につながるのが最高です。
   ⑧の「どんな夜も僕らを離せないから せーのでさあ飛び越えよう」という歌詞が好きです。そして、⑨の「誰にだって創れるもんに価値はない」という歌詞がグサッと刺さります。

   以上、「CDを5枚以上持っているアーティストを紹介するコーナー」の第1回目は、nano.RIPEの紹介とそのアルバムの感想でした。
   メロディが美しく、歌詞も儚いなかに力強さがあり、サウンドもかっこいいので、スピッツを好きな方もぜひ聴いてみてください。
   最初にどれか一枚を買うとしたら、1stアルバムをおすすめします。ポップな部分とダークな部分のバランスが良いので。

   次回は、「クロマニヨンズ」の全アルバム感想を書こうと思います。スピッツ好きはヒロト&マーシーもたぶん好きかなということで。