動いて動いて、ただ動き続ける ~スピッツ「ビギナー」感想

「ビギナー」はスピッツの13thアルバム「とげまる」の1曲目に収録されています。
「とげまる」の発売前後によくテレビで演奏していましたので、シングル曲ではありませんが、聴いたことがある人も多いかもしれません。

   当時、ベテランの域に入りつつあったスピッツが「ビギナー」というタイトルの歌を出してきたことに、妙に嬉しくなったのを覚えています。ああ、何年経ってもスピッツはスピッツだなぁって。スピッツが「ビギナー」と言っても、狙った感じがなく、自然に聞こえるのがまたいい。

   歌については、派手ではないですが、歌詞にもメロディにもじわじわとこみ上げて来る熱いものがあります。がっつり応援するのではなくて、不器用な人が、不器用な形で、同じように不器用な人の背中をそっと押してくれる、そんな歌です。聴いているとほんわりと力が灯ります。

   特に好きな歌詞は2回目のサビの「だから追いかける 君に届くまで ビギナーのまま 動きつづけるよ」です。1回目のサビである「慣れないフォームで 走りつづけるよ」もいいですが、自分は2回目のサビの方がすきです。「動きつづける」という、あまりかっこいいとは言えないこの言葉がものすごくいい。
   野球をする、サッカーをする、音楽を作る、という具体的な行動ではなくて、その土台となる、走る、泳ぐ、歌うという基本運動ですらなくて、「動き続ける」という動物が動物たる所以の最も単純なことを歌詞に持ってきているのが、飾ってなくて、本当にビギナーなんだなと感じました。
   みっともなくてもかっこ悪くても、ぎこちなくても、動き続ける。走れなくても泳げなくても歌が下手でも、動き続ける。何年経っても何歳になってもビギナーのまま、動き続ける。技術なんていらない、もっと原始的に、ただ動き続ける。

   いい大人が手足をばたばたと動かしてもがいている姿を想像するとちょっと滑稽な気もしますが、それでも、”もう年だから……”と嘯いて、クールなふりして立ち止っているよりは、きっといい。動き続けていれば、ちょっとずつできることが増えて、届かなかったものに近づける気がします。

   そして「ビギナー」を聴いていると、初心に戻れるというか、新しいことに向き合ってうまく行かなかったときに、まあいいか、もうちょっと焦らずがんばってみるかっていう気持ちにさせてくれます。良い曲です。

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   今日は、子供の幼稚園のお遊戯会の日でした。年長の次男と未満児の三男が大きなステージに上がって一生懸命踊っていました。下手っぴでも楽しそうに踊っている姿は初々ししくて、微笑ましかったです。うまく言えませんが、見ていてほんわり「ビギナー」な気持ちになりました。