30代男子が語る 谷川史子 プチ感想とおすすめ作品 その1(1987~2000年)

   先日、宣言した通り、漫画家の谷川史子さんの作家デビュー30周年に便乗して、自分が持っている谷川作品のプチ感想を書きます!
谷川史子 1987-2000

   少女漫画は子供のころからよく読んでいたのですが、そのなかでもずっと読み続けてきたのが谷川作品です。絵もすっきりして見やすいし、女の子もかわいいし、話も面白い。

   第一回目の今回は、2000年以前に発売された初期の12作品です。
   発売してから時間も経過していますので、ストーリに触れて感想を書きます。軽いネタバレありですのでご注意ください。
   ちなみに、この記事を書く、私やまぢは30代後半の男性ですので、女性視点とはちょっと違うかも……です。まあ、男性が書く少女漫画の紹介記事というのがあってもいいですよね。

   感想を書くにあたって久しぶりに全作読み返しましたので、おすすめ作品を4作(全体の3割)選んでみました。果たしてなにが選ばれるかな??




花いちもんめ(1989)

   最初の2作品(単行本の2,3話)はまだ絵が拙いですが、3作目からは’90年代の谷川さんの絵っぽくなり、女の子もかわいくなります。好きな話は5話目(4作目)の「早春に降る雪」と、1話目(5作目)の「花いちもんめ」です。
「雪」はぶっきらぼうな先輩と後輩の女の子の話。「会いたいなぁ ただ会いたい それだけで会いに行っても ……いいかなあ?」とつぶやく女の子の切ない表情と、雪が積もる駅舎を上から見下ろしたラストの絵が好き。ストーリもすっきりまとまっていて、男女どちらの心の動きも上手く描けてるし、恋愛の短編漫画の完成形と言ってもいいくらいの素晴らしい出来栄え。
「花いちもんめ」は実の兄のことが好きな高校生の妹の話。どぎついインセストタブーはなく、家族愛と恋心とが混ざり合ったようなかわいらしく微笑ましいもので、読んでると和みます。

きみのことすきなんだ(1991)

   表題作の「きみのことすきなんだ」がおすすめ。魚の嫌いな女の子を好きになった魚屋の男の子のお話です。男の子が主人公ということもあって感情移入しやすいです(男の子目線)。女の子が魚を持って男の子の病室を訪ねるシーンにうるっときます。手をつないで波打ち際を歩くラストの一枚絵も、好き。

きもち満月(フルムーン)(1991)

   豆腐でエスパー魔美な物語です。コメディですね。この漫画を読んで初めてトレンチコートというものを知りました。長編の表題作以外に短編が1つ付いてきます。悲恋もので、ものすごく切ない。

各駅停車(1992)

   表紙が秀逸。黒髪の美少女が膝を抱えて椅子に座っている、もうそれだけで最高です。絵柄もモダンな感じでいい。
   表題作の「各駅停車」は3話からなるオムニバス形式の連作です。谷川史子の得意のパターンですね。特に1話目がいい。主人公の男の子が、扉が閉まった電車のなかの少女に向かって「好きだ好きだ好きだ」と連呼した後に、自転車に飛び乗って電車を追いかけるシーンが、恥ずかしいけど、かっこいい。ここだけ何度も読み返したくらい、気に入っています。
   数年後に徳永英明の「I Love You」を知ってからは、サビを聴くたびに、ついついこのシーンが浮かんでしまいます。

くじら日和(1993)

おすすめ!
   黒髪ふわふわのくじらちゃんがかわいい。こんな美人でかわいい従兄妹がほしかった。
   ストーリの方も谷川作品にしては珍しく二転三転して、ドラマもあり、楽しめました。終わらせ方も未来に向かっていて清々しい。アパートの住人たちがわりと個性的で楽しかったので、もう少し物語にからんで、下宿ものの雰囲気が出ていればもっとよかったと思います。
   この頃からだいぶ絵も安定し、粗さもなくなってきたので、安心して見られるようになってきたと思います。

君と僕の街で(1994)

   お得意のオムニバス形式の短編集です。どの話も悪くないのですが、いまいち印象が薄いです。ちなみに5人いるヒロインのうちでは3話目の割烹着姿の幹ちゃん(黒髪ショート)が好みです。え、聞いていない。そうですか。

   ここまでで前半6冊終了。次から後半6冊です。

一緒に歩こう(1995)

「一緒に歩こう」は、弟の通っている幼稚園の保育士さんに恋するお姉ちゃんの話。
「一緒に帰ろう」はその弟が高校生になった10数年後の話。幼なじみものです。いいですよね、幼なじみ。少女漫画でも萌えアニメでも王道の一つです。こんな奇麗な幼なじみがほしかった。(こればっかり)

ぼくらの気持ち(1996)

おすすめ!
  4つの短編が収録されていますがどれも面白くて、よく読み返してました。そのなかでもおすすめなのは「最初のクリスマス」です。短いページ数のなかで、クリスマス当日の彼氏彼女の物語が、回想を織り交ぜながら、とてもうまくまとまっています。ラストのクリスマスケーキのアップの1コマが素敵です。じんっときます。

愛はどうだ!(1997)

おすすめ!
   妹の「りぼん」を借りて、毎月楽しみに読んでいたのを覚えています。主人公の小町ちゃんが元気でかわいい。表紙の絵はちょっと大人びてるかな。もっと小動物なイメージです。
   話は、年上の男性への恋心、お姉ちゃんへの姉妹愛と嫉妬がからんで、更に主要キャラが5人くらい出てきて、あーだこーだとなって、若干ごちゃごちゃした感じはありますが、最終回で大団円に向かって一気に収束していく様子は読んでいて気持ちよかったです。
   ラストで、いつもはクールな御徒町くんが「俺もじつはこういうの嫌いじゃないんだ。探偵ごっこかスパイごっこみたいで」と言ったときに一瞬のぞかせたこどもっぽい表情が好きです。中学生男女の恋になる前の恋の話を描いていて、初々しくていい。

ごきげんな日々(1997)

   短編が4話収録されています。一番好きなのは表題作の「ごきげんな日々」です。「ラーメンの気持ちも俺の気持ちも考えなしじゃん」と怒るハルタくんがいい味を出してます。「背中を押してくれてありがとう」という台詞もいい。

外はいい天気だよ(1998)

おすすめ!
   表題作「外はいい天気だよ」は谷川史子得意のオムニバス形式の短編集です。これまでにない試みとして、1話ごとに登場人物の年齢が上がっていきます。1話目のカップルは中×中、2話目は中×高、3話目は高×大といったふうです。
   1つの作品のなかで年代の異なる3種類の恋愛話を楽しめるというのは、ストーリに幅もできるし、読者を飽きさせないという点でも、とてもよくできた仕組みです。これは谷川オムニバスの一つの到達点なのではないかと思います。
   この手法ならではの印象的な一コマが3話目にあります。高校生の女の子(3話目のヒロイン)が大学生の彼氏(3話目の男の子)のことについて、中学生の女の子(2話目のヒロイン)と恋話をしているシーンです。女子中学生から見たら、大学に通う彼氏なんて大人過ぎて別世界の存在だと思うのですが、こういうシチュエーションが出てきても不自然に感じないのは、年齢が上がっていくオムニバスストーリならではだと思います。
   もう1つの短編「春がきて恋をする」も、おすすめ。物語のキーワードに”je te veux.”を持ってくるのが素敵です。

王子様といっしょ!(2000)

   子供のころに遠くに引っ越した女の子の幼なじみと再会したら、実は男の子だった、というお話。今までの谷川作品にない挑戦的な設定で、男の子もまっすぐなだけじゃなく性格に(ちょっと)クセもあって、おもしろくなりそうな要素が満載!……なのですが、若干不発気味。惜しい感じがします。




   以上、谷川作品の初期12作を紹介しました。おすすめは「くじら日和」「僕らの気持ち」「愛はどうだ!」「外はいい天気だよ」でした。
   あらためて読み返してみると、どれも初々しくていいですね。中学生から高校生くらいの恋の話が一番読んでて楽しいです。スピッツの歌にもよく合います。「ヒバリのこころ」「空も飛べるはず」「涙がキラリ☆」「チェリー」「魔法のコトバ」とか。
   またいずれ、続編として’00年代編もやりたいと思います。