こんな世界でも天使はいる ~スピッツ「僕の天使マリ」感想

「僕の天使マリ」は3rdアルバム「惑星のかけら」の3曲目に収録されています。

   アップテンポで軽快なリズム、明るいメロディ、間奏での絶妙なギターの掛け合いなど、ライブ映えするサウンドと、胸がきゅっと切なくなる歌詞とが合わさって、スピッツの良いところをぎゅっと詰め込んだ一曲です。

   好きなところはいろいろありますが、一番好きなのは2題目の歌詞です。
   つらつらと書いていってみます。

   まずAメロ。「朝の人ごみの中で泣きながらキスしたマリ 夜には背中に生えた羽を見せてくれたマリ」ーー泣きながらキスする二人の横を無関心に人混みが通り過ぎていく”朝”と、普段は羽を広げないマリが背中の羽をそっと見せてくれる”夜”。
   明るい朝には冷たく拒絶する「外の世界」を置き、暗い夜には二人だけの「小さな世界」を描く、という対比がすごく好きです。
   十代のころって、自分を取り巻く世界からの疎外感が強かったので、こういう「冷たい世界と僕(ら)」という構図にものすごく心を動かされました。

  次にBメロ。「きっとこんな世界じゃ探し物なんてみつからない だけど」ーー天使に会えたのだから、「探し物もみつからない」なんてことはないし、「こんな世界」と言うほど酷くもないのではないかとも思うのですが、逆に言うと、天使に会えたぐらいじゃどうしようもないくらい”僕”を取り巻く世界は残酷なのかもしれません。
   Aメロ同様、「外の世界に対する否定」というのが心の琴線に触れるものがあり、Bメロの歌詞は何度も何度も口ずさみました。

   そしてサビ。サビは1題目と共通ですね。「マリ マリ マリ 僕のマリ もうどこへも行かないで」ーー名前を連呼して「もうどこへも行かないで」と訴えるあたりに、想いの深さと本気度がうかがえます。また、”こんな世界に僕を一人にしないで”というギリギリの崖っぷち感もあります。
   これ以上ないほどの切実な告白に、胸がグッとえぐられます。

   ああ、こうして読み返していくと、(1題目の歌詞は省略しましたが)歌のどの部分を切り取ってみても、他にないくらいのストレートなラブソングになっていますね。ネガティブな世界観の上に強い想いが歌われています。
   若干若気の至りと言えなくもないですが、それもまた青くさくていいです。何年経っても何歳になっても色あせないものがあります。

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   十代後半から二十代前半のころ、「背中に生えた羽」とか「すぐに飛べそうな背中」(遥か)とかスピッツの歌の影響で、女の子の背中には何かあるような気がして、いつか彼女ができたら背中をじっくり見てみたいと思っていました。
   結局、(彼女いない歴が長過ぎて)実際に彼女ができたころには背中のことなど忘れていて、そんなにまじまじと背中を見たりすることはありませんでしたが。もしもそのときスピッツの歌を思い出して彼女の白い背中を見ていたら、羽のかけらとか見えていたのかな。そんなことを思いました。