”泣かないで”と言ったのは誰? ~スピッツ「魔女旅に出る」感想

「魔女旅に出る」は2ndアルバム「名前をつけてやる」の11曲目に収録されています。
   タイトルもかわいいし、歌の内容もかわいいし、だけど、チクッと痛いトゲも持っていて、好きな歌の一つです。


   歌のなかに「苺の味」「猫の顔」「ガラスの星」「空高く書いた文字」「ゆがんだ鏡」「まだらの靴」といった言葉がちりばめられていて、それとなく魔女っぽい雰囲気をかもし出しています。
   また、旅立つのは魔女(君)の方で、僕は「祈りながら君を見ている」側というのが、初期のスピッツの世界観らしくていい。

   この歌の見どころの1つはオーケストラを惜しみなく投入した間奏です。
   いつもはオーケストラアレンジなんて邪道だ、ロックバンドはギターで勝負しろ!と頭の固いことを言っているのですが、「魔女旅に出る」だけは別で、オーケストラでよかった、むしろオーケストラがいいと思います。

   特に間奏のストリングスの盛り上がり方は、ギターだけでは出せない上昇感とキラキラ感があり、素晴らしいです。魔女が、魔法で作った音符や星や月や、たくさんのきらきらしたものを引き連れて、輝く天の川を描きながら夜空を飛んでいく様子を想像して楽しくなります。

   さて、今回最も注目したいのはサビの歌詞です。ここは「君」と「僕」の台詞の掛け合いだと思うのですが、どちらがどの台詞を言ってるのかが気になるところです。とりあえず3つのパターンがあるかなと。

パターン①
   僕「泣かないで」
   君「行かなくちゃ」
   僕「いつでもここにいるからね」

    旅立ちの前に不安がる”君”へ、「泣かないで」と”僕”が優しい言葉をかけます。それを聞いた”君”が涙を拭って「行かなくちゃ」と言って笑顔になり歩き出す。そんな”君”の背中に向かって”僕”が「辛くなったらいつでも帰っておいで。僕はここにいるからね」と言う。おお、”僕”が男らしい包容力を見せて、旅立ちのワンシーンがいい感じに仕上がっています。

パターン②
   君「泣かないで 行かなくちゃ」
   僕「いつでもここにいるからね」

   泣いているのは”僕”の方で、そんな”僕”を慰めるために「泣かないで」と”君”が言う。旅立ちの時間が迫り、思わず”僕”の口から出た言葉が「いつでもここにいるからね」。これだと「早く帰ってきて」の意味合いになっちゃって、結構情けない。意を決して旅立とうとしている”君”が困っている顔が目に浮かびます。”僕”、もっとしっかりして!と言いたくなります。

パターン③
   君「泣かないで 行かなくちゃ
         いつでもここにいるからね」

   最後のパターンはすべて”君”の言葉になります。”僕”は泣くばかりで、無言です。”君”は泣き止まない”僕”に疲れ、慰めの言葉も底を尽きてしまい、ついには「いつでもここ(=”僕”の心)にいるからね」とロマンチックなようでいて適当ないい感じの言葉でごまかして、去っていきます。たぶん、もう”僕”のもとに帰ってくることはないでしょう。一番悲惨なやつです。

   どのパターンにしても主役は”君”の方だというのがスピッツらしい気もします。
   本当はパターン④(全部の言葉が”僕”の言葉)もあって、実はそれが正しいのではないかと今ふと思ったのですが、まあいいかってことで割愛。

* * *
   余談ですが、「魔女旅に出る」はスピッツ初のタイアップ曲だそうです。CMに使われたのが地元石川の「白山瀬女高原スキー場」ということで、石川県とスピッツの間にこんな縁が!!と嬉しくなりました。傍から見たら大したことではないんでしょうけど、ちょっと誇らしい気分。
……といっても、自分はスキーに行かないので全く知りませんでしたが。