ひと夏の冒険譚 ~スピッツ「死神の岬へ」感想

「死神の岬へ」は1stアルバム「スピッツ」の8曲目に収録されています。


   作曲は三輪さんです。「月に帰る」と同じくメロディが美しいです。明るいメロディに、ズンタッズンタッと軽快なリズムが気持ちいいです。
   しかし、歌に目を向けると、ところどころ影のある歌詞がちりばめられていて、歌全体から死の匂いが漂っています。(そもそもタイトルからして「死神」ですし。)
   ただ、それが本物の”死”かというとどうも違う気がします。
   例えば「死神が遊ぶ岬を目指して」「歳老いたのら犬を見た」「ガードレールのキズを見た」「いくつもの抜け道を見た」という歌詞は、大人というよりも子供の視点のようににも取れます。
   仮にこの歌の主人公が大人ではなく少年だとすると、この歌のもつ陰鬱な影は、実際の死というよりも、子供が抱く、死への無邪気な憧れのようなものなのではないかと思います。(もっとも、草野さんの歌詞が子供と大人の間を行ったり来たりしているので、ずばり”子供”ということもないのでしょうけれど。)

   そうしたわけで、 僕はこの歌を聴くたびに、なんとなく、ジュブナイルな映画のストーリを想像してしまいます。例えば、死体を探して遠くまで出かける「スタンドバイミー」の映画のような。あるいは、歌の中に「二人」と出てくるので、少年と少女のひと夏の冒険譚のようなものです。こんな感じ↓

「死神が遊ぶ岬」というのは、宝の地図に載っている暗号で、それを目指して、二人でバスを乗り継いで、まあ自転車でもいいのですが、日が昇る前に出かけるんですね。
   それから、大人にしてみたら大したことないんだろうけど、子供の二人には初めてだらけの大した冒険をするわけです。ノラ犬に追われたり、街灯の消えかけた隧道(トンネル)をダッシュで駆け抜けたり、昼間なのにお化けが出そうな空き家の裏をおっかなびっくり通ったり。そうしてやっとの思いで目的の岬にたどり着く。
   岬に立った二人はやせこけた鳥の目印をみつけ、その下に穴を掘る。すると、青白い箱が現れて、中を開くと……。というひと夏の物語。
   で、夏が終わると、少女の方は遠くの街に引っ越して行ってしまうわけです。(←決してハッピーエンドは認めない病)

   ……いっぱい書きましたが、全部僕の妄想です、悪しからず。ただ、サビで「~を見た」を繰り返すのを聴いていると、映画や漫画の一コマを思い浮かべて、それをつなげたストーリーをついつい想像してしまいます。なんか楽しいですよね、こういうの。

   ちなみに、「見た」シリーズのサビの中で一番好きな歌詞は「ガードレールのキズを見た」です。旅をしていたら、ふと目に入ったものが妙に印象に残るときがあるので、なんとなく共感してしまいました。
   一つ前の曲が「タンポポ」なので、ガードレールの下にはタンポポが風に揺れて咲いてたりするのかもしれないですね。