明け方のアルバム ~徳永英明「BATON」感想

BATON

   先週7/19に発売した徳永英明の17枚目のオリジナルアルバム「BATON」の感想を書きます。
   前回、アルバム全体の印象について「優しい、あたたかい、暗い、重い、激しい、といろいろな要素が詰まっています」と書きました。その印象は1週間聴いた今でも変わっていません。
   また、徳永英明のアルバムは一日のどの時間帯に合っているだろうとよく考えます。例えば、「Nostalgia」は夜、「太陽の少年」は朝、前作「STATEMENT」は夜眠る前のころです。そして今作「BATON」は朝と夜の間、明け方というイメージがあります。「始まり」を感じるアルバムです。
徳永英明「BATON」

   以下、簡単ですが1曲ごとの感想を書きたいと思います。

1.ずっと変わらないもの

   アルバム全体の印象を決めるオープニングナンバーは優しいサウンドとゆったりとしたメロディが特徴的です。「BATON」が明け方のアルバムだと感じた理由はこの1曲目と4曲目(バトン)のイメージから来ていると思います。まどろみのなかで聴いていたい曲です。
「新しい空が昨日を解いても 君のすべてが恋しい」という歌詞がロマンチックです。

2.夢を

  1曲目から一転して明るく力強い曲。もしも目覚ましで流す音楽に「BATON」を選んだとしたら、「ずっと変わらないもの」で、うっすらと目が覚めて、続く「夢を」で、ぱっちり目が開きそうです。

3.空はみんなのもの

   タイトルを聞いたときは「みんなのうた」に出てくるような優しくやわらかい歌なのかと思いましたが、全く違ってハードなナンバーでした。
   AメロBメロ→サビ→大サビという大胆でシンプルな曲構成です。そのため、大サビの盛り上がり方がすごいです。畳みかけるような展開と、迫ってくるような歌声にやられました。ーー迫力に押されて「空はみんなのもの だからみんな同じなんだよ」という歌詞にも妙な説得力を感じます。

4.バトン

   唯一のシングル曲です。「負けてもいい」というメッセージソング。晴れていく空のような清々しいメロディと、伸びやかな歌声が気持ちいいです。派手ではないですが、静かに心に染みわたる名曲だと思います。
「夜空が明けてゆくよ 背中が僕の希望」という歌詞が好きです。今の僕から未来の僕へバトンを渡すイメージに、優しく励まされます。君や誰かではなくて、未来の自分へというのが良いです。

5.陽炎

   僕は「VOCALIST」シリーズの中では「VOCALIST VINTAGE」が一番好きなのですが、そんなVINTAGEテイストの曲です。VOCALISTシリーズを作ったことで生まれた徳永英明の新たな一面なのではないでしょうか?
「でも、あなたの好きな洋菓子を~」と歌う徳永さんの歌声から感じられる色気がたまらないです。

6.あなただけにしか素顔は見せない

   他の曲に比べるとやや平凡な印象の曲です。悪くはないのですが。

7.無言の力

   日本海の荒波が、ざっぱーんっと飛沫をあげて、拳をぐっと握りたくなるような、パワフルな曲です。演歌とも違うし、なんていうジャンルにあたるんだろう。これも「陽炎」同様これまでになかった曲調です。

8.きたかぜとたいよう

   北風よりも太陽の成分の方が多めです。「あぁ君は太陽 心の服を脱がされるたび すなおになるよ優しくなるよ」というサビは、河原に転がってお昼寝をしながら聴きたくなります。ぽかぽかとあたたかい歌です。

9.置手紙

   あなた(男)が出て行った部屋に女の人が一人残り、あなたの面影を探して泣き暮れている、そんな情景が浮かぶ歌です。暗く重い曲調の中で、置手紙とあなたの面影(もはや幻?)が交互に現れます。悲しい歌なのですが、最後にほんの少しの救いを予感させて終わります。
   最後の歌詞は「さようなら」なのですが、それを歌う声がやわらかい。あなたの面影を吹っ切った、あるいは吹っ切ろうとしている、そんな清々しさが感じられます。
   泣き疲れて眠りに落ちて、気がついたら窓の外からかすかな光が差し込んでいた。そんな物語のラストを想像したくなります。
   また中盤の「決して消えない あなたとのすべては」の高音はアルバム全体のハイライトだと思います。惚れ惚れします。

10.ハルカ

   風がさらさらと吹く緑色の草原に立っているような、広くおおらかな気持ちにさせてくれる曲です。「はるかに はるかに」というシンプルなくりかえしのサビが心に残ります。高音を抑えて中音で優しく語りかけるように歌い上げているので、ニュートラルな気持ちで、何度でも繰り返し聴きたくなります。
   この歌の最後の歌詞は「愛のためだけに 遥か 愛のためだけに」です。ーー未来へ向かって伸びる道が見えるような気がします。

11.僕のそばに(Self-cover ver.)

   限定盤Bのボーナストラックです。前回、少し感想に触れましたのでよかったら見てみてください。
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まとめ

   前作「STATEMENT」の流れをうまく引き継いだ、とても良いアルバムです。(まさにバトン!)お気に入りの曲も何曲かできたのも嬉しいです。おすすめは③空はみんなのもの、④バトン、⑤陽炎、⑨置手紙、⑩ハルカ、です。

   ただ、スローテンポな曲が多いため、ファンでない人が聴いたときに、似たような曲ばかりという印象を受けて、1回聴いただけで終わってしまわないかということが心配になりました。
   できれば、後半にライブで楽しめるようなアップテンポな曲がもう1曲ほしかったです。例えば、2000年以降の曲でいうなら「MEMO」や「We all」のような曲です。

   とはいえ、徳永英明の今の魅力がいっぱい詰まった素敵なアルバムです。ぜひ聴いてみてください。そのときは、1回だけじゃなくて、できれば2回3回と。きっと心の琴線に触れるものがあると思います。