70年代っぽいんだって ~スピッツ「TRBANT」感想

「TRABANT」は13thアルバム「とげまる」の9曲目に収録されています。

   うちの妻と母親が好きな曲です。妻曰く「70年代っぽい感じがいい」だそうです。実際に70年代に流行っていたロックと似ているのかはわかりませんが、たしかに、ちょっとヴィンテージな味わいのある曲です。
   いつものスピッツが「瑞々しい」としたら、この曲のスピッツは「渋い」です。渋くてかっこいいスピッツを感じることができる曲なんて、他にはそう無いのではないでしょうか。そういえば、タイトルがアルファベットというのも珍しいですよね。(と思って調べたら数曲ありました。意外と多い?)

   歌詞のなかに「唐辛子」と出てくるので、「トラバント」って唐辛子の仲間か辛み成分のことなのかとずっと思っていましたが、違ってました。
   ネットで調べてみると、ドイツ語で衛星、仲間、随伴者の意味があるそうです。また旧東ドイツの大衆車の名前にもなっていたみたいです。
   もともとの仮タイトルは、ロシアっぽいメロディということから、ロシアに関係するタイトルをつけていたこともあったようですし、この曲からいつもと違う異国の雰囲気を感じたなら、それはきっとスピッツの狙い通りなのでしょうね。
   うちの妻と母は、空間を移動して東欧に飛ぶんじゃなくて、時間を移動して70年代に飛んでしまいましたが、まあ、いつもと違うスピッツを感じられたという意味では、わりと正しい感覚なのかもしれません。

   サウンドは、湿りや甘いところのない、枯れて乾いた感じで、クールで決まっています。ギターの音が大きいし、ドラムも激しい。
   歌詞は「草木もない灰色の 固い大地の上に立つ」「唐辛子多めでお願い」「高い柵を乗り越えて 君と旅に出たい」「伝説かき集めて 隠された続きを探る」など、荒野に立つガンマンみたいな、あるいは和製デスペラードのようなかっこよさがあります。

   いつものカラフルでポップなスピッツとはまた違う、ハードボイルドでピリッと辛いスピッツを味わえます、と書いて感想を締めようと思っていたのですが、歌詞の最後が「最高の旅立ちを 今日も夢見ている」なことに気づいて、夢オチかよ!と思わずつっこんでしまいました。
   世界をぐるっと1周旅して、また元のレンゲ畑に戻ってきた感じです。スピッツはどこまで行ってもスピッツなんだなと思いました。というお話。