スピッツ「シングルコレクション 1991-2017」感想その2 ~全体の感想

   スピッツ「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」の感想の2回目です。
   前回は、オリジナルアルバム盤との違いを中心に書きました。そして次は「ヘビーメロウ」「歌ウサギ」などの新曲の感想を書こうと決めていましたが、よく考えたら、歌の感想は1曲ごとに書くスタイルなので、アルバムの感想記事に書くのもおかしいかなと。そこで、今回はシングルコレクション全体の感想を話そうと思います。

オリジナルアルバムを持っているのにシングルコレクションを買う意味はあるのか?

   実はシングルコレクションを買ったのはこれが初めてです。これ以前のRECYCLEも、CYCLE HITも買っていません。
   メンバーが選んだり、ファン投票で生まれたベストアルバムなら、どんな曲が選ばれどんな順番で聴かせてくれるんだろうという楽しみがあります。しかし、シングルコレクションは、シングル曲を年代順に並べただけというのが手抜きに感じられて、あまり好きになれず、買うのに抵抗がありました。RECYCLEにいたってはいろいろ事情もありましたし。

   だけど、今回のシングルコレクションは結成30周年という記念年ということもあり思い切って購入してみることにしました。聴いてみると、買うのを迷っていたのが莫迦らしくなるくらいの名盤でした。買ってから2週間近くずっとリピートして聴いています。
   ということで、買って良かったと思った点を書いてみます。

1.新曲が3曲も聴ける

   とりあえず、まずはこれですね。新曲「ヘビーメロウ」「歌ウサギ」「1987→」のどれも名曲だったので、これだけで十分もとが取れそうです。人によっては、新曲3曲買ったらおまけでシングル曲が42曲もついてきた、と言う人もいるかもしれません。

2.リマスタリングが素敵すぎる

   前回も書きましたがリマスタリングで古い曲の音がクリアになって、パワーアップしてます。耳が良い人にとっては、手持ちの曲が42曲も音が良くなったうえに、おまけに新曲が3曲もついてきた、と言う人もいるかもしれません。

3.音量が統一されている

   古い曲も新しい曲と同じ土俵で聴けます。物理的に音量レベルが同じという意味で。
   新しい曲を聴いた後に古い曲を聴いても、ボリュームを右に回したりする必要がありません。その逆も然り。ストレスフリーでスピッツの30年間を疾走できます。

4.年代順でも意外といけてる

   シングル曲を年代順に並べただけなんてつまらない!と決めつけていましたが、聴いてみると決してそんなことはありませんでした。抑揚や緩急があり、オリジナルアルバムを聴いているかのように、いろいろなスピッツの側面を楽しむことができました。
   また、シングル曲のみだからといって、大トロしか出てこない寿司屋に入ってしまったということはなく、ヒカリモノも巻物もバランスよく出てきて、飽きることがありません。
   この点について、あとでもう少し詳しく書きたいと思います。

5.違和感なく何回でもリピートできてしまう

   ラスト45曲目の「1987→」は「バンド結成当初の“ビートパンクバンド”スピッツの新曲という想定で作った1曲」ということもあり、最新曲でありながら、「スピッツ(アルバム)」のころのスピッツを感じさせる1曲です。
   そのため、プレイリストをオールリピートにして流していると、ラストの「1987→」からデビュー曲「ヒバリのこころ」の流れに何の違和感もなく、最後と最初が自然につながります。その結果、区切りが消えてなくなり、際限なくリピートし続けることができてしまう。まるで、いつまでも上り続けることができる螺旋回廊のだまし絵のようです。
   まあ、実際には3回リピートしただけで9時間も経っちゃうので、さすがに何回もループするのは無理がありますが。

バラエティ豊かで曲展開も飽きさせないアルバム構成

   4.で書きましたが、シングル曲を年代順に並べただけなのに、メンバーとスタッフの間で試行錯誤した末に選択したような、抑揚と緩急のあるアルバム構成になっていて、45曲通して聴いていても、途中でダレたり、飽きることがありません。

   例えば、3枚目のCDの3曲目の「群青」から9曲目の「さらさら」までの流れを見てみます。
   アップテンポで元気の出る「群青」から始まり、切ない別れのバラード「若葉」、サマーチューンでノリノリの「君は太陽」、手堅い「つぐみ」、まったり脱力系の「シロクマ」、まさかのカバー曲「タイムトラベル」、そしてマイナー調のロックナンバー「さらさら」と、曲ごとに表情がころころと変わります。

   他には、例えば、2枚目のCDの2曲目の「運命の人」から11曲目の「ハネモノ」までの流れはどうでしょうか。
   明るい「運命の人」のあとに、落ち着いた「冷たい頬」「楓」「流れ星」と続き、その後「ホタル」「メモリーズ」「さわって・変わって」「ハネモノ」など上調子の曲がかたまっています。オープニングの曲の後に、MCをはさんで静かな曲が3曲続いて、それから「行くぜー!」と観客をあおったあとに、盛り上がる曲がガンガン続くという、まるでライブのような曲構成になっています。

   まあ、シングル曲を出すときにある程度、戦略的に曲をチョイスしているというのもあるのかもしれませんが、それにしてもバラエティに富んでますよね。
「メモリーズ」のような一般のスピッツのイメージじゃないものや、「さわって・変わって」のような変てこりんなものや、「シロクマ」のようなシングルにしては地味なもの(好きです)も、シングル曲として出しているのが功を奏して、シングル曲を集めただけでも、多面的なスピッツを見せてくれることにつながっているのかなと思います。

   冒頭の見出しに「オリジナルアルバムを持っているのにシングルコレクションを買う意味はあるのか?」と書きましたが、買って本当によかったです。贅沢で楽しいCD-BOXです。オリジナルアルバムを全部持っていても買う価値は十分あると思います。