スピッツ「アパート」感想

 3rdアルバム「惑星のかけら」の5曲目に収録されています。
 フォークロックという言葉があるのかわかりませんが、6畳間的な歌です。(4畳半は森見登美彦に譲っておきます)


 イントロのアルペジオからして切ない。ウッドベースのようなとろーんとした響きのベースも歌に寂しく澄んだ色合いを添えています。間奏のハーモニカもじんっと来ます。

 歌詞がまた儚い。「君のアパートは今はもうない」と冒頭からすでに終わった恋を予感させます。そして、「壊れた季節のなかで」「青の時は流れて」と青くさい恋を象徴するような言葉が続きます。
 草野マサムネらしい儚い世界観の歌です。ただ、いまあらためて歌詞を思い返してみると、ザ・草野正宗といった感じの謎めいたフレーズは一切なく、ごく普通の言葉のみで構成されている。儚いけどリアリティのある恋を歌っている。それが君と僕の二人の物語を想像しやすくし、この歌を親しみやすくしていると思います。

「アパート」のなかで最も心に残っているフレーズは「そう恋をしてたのは僕のほうだよ」というサビの部分です。
 この曲を聴いたのは十代のときです。十代の僕はずっと片思いをしていて女の子のことなんて何も知りませんでした。だから、女の子とつきあったあとに、それでもなお自分しか恋をしていなかったという事態があるということが信じられませんでした。というかショックだった。なんて、女の子は深く難しく遠いのだろうって。

 あのころ、女の子も、両思いも、何もかも、ほんと遠かったです。それこそ、違う惑星の上にあるように。

 まあ、今でも女の子のことなんて全然わかりゃしないんですけどね。人間、何十年生きても進歩しないところは進歩しないです。