「Φ」はmol-74の3枚目のオリジナルフルアルバムです。
ブックレットレス
今作にはブックレット(歌詞カード)がありません。
理由はアルバムコンセプトの「光」を表現するために、「視覚でも光を感じ」られるように「透明感のある美しいパッケージを目指し」た結果、「ディスクがより多くの光を取り込めるようにブックレットを設けないデザイン」にしたからです。
「光の当たり方や角度によって、銀抜きされた点や線が様々な色合いを見せてくれます。」と書かれているとおり、CDを手に取っていろいろな角度から覗いてみると、星がきらめいているようにも見えて美しいです。
しかしこの企画は失敗しているように思います。
だって音楽を聴いているときはCDがプレーヤーのなかに収納されていて手元で見ることができないわけですから。
こうした仕掛けをブックレット(歌詞カード)の方に仕込んでくれたら、音楽を聴きながら光の変化を楽しめたのになーと思いました。ちょっと残念。
音
いつもなら買ったばかりのCDを聴いていて気になった歌詞が流れたら歌詞カードで確認するのですが、今回はそれができません。
そうかといっていちいち一時停止して数秒戻して聞き直すのも億劫です。
なんとなく何曲目の何メロのこの歌詞いいなぁ、そういえばあの歌詞もがよかったなぁ、でもあれは正確にはなんて言ってたっけなぁというふうに記憶と忘却を繰り返しながら全体を通して聴いていると、ときおり鮮やかに脳内に入り込んだ言葉(歌詞)が時間とともにぼやけてにじんだりして、アルバムコンセプトの「光」のゆらめきのようです。
僕たちは普段、歌を視覚から(つまりは歌詞カードから)も吸収しているのだと再認識します。
アルバムを何度も繰り返し聴いて、耳から入る音だけで歌詞を覚えていくと、雪や霧で見通しの悪かった景色が時間とともに徐々に鮮明になっていくようです。
たまにはこういう音楽の聴き方も悪くない……かも?
光
コンセプトが「光」というだけあって歌詞のなかにはいくつも「光」という単語が出てきます。
耳で拾えたものを並べてみます。
「光の中にいたい」(① Φ12)
「汐風が肺を満たして 君への言葉が詰まって 微かな光」(③ オレンジとブルー)
「奇跡めいた光と」(⑦ 虹彩)
「永遠に輝いている 熱っぽい光の色彩がきれいだった」(⑦ 虹彩)
「まだ見えない光の先に飛んでる」(⑧ フランネル)
「眩しく射し込む光が」(⑩ 寝顔)
光、多い!
そして光の種類も様々です。鮮烈な光だったり、冬の木漏れ日のようだったり、切なかったり、優しかったり。
今回驚いたのは、mol-74の引き出しの多さです。
疾走感のある②「遥か」と③「オレンジとブルー」、
しとしとと雨が降る情景が浮かぶ⑤「通り雨」と、そこからのつながりが上手い⑥「BACKLIT」、
光が乱反射するように歌声が重なり合う⑦「光彩」、
切ない⑧「フランネル」と⑩「寝顔」、
5分台の大作⑨「アンサーソング」、
ラストを飾るのは不安を掻き立てるようなメロディの⑪「R」
正直に言うと、mol-74はボーカルの武市さんのファルセットを効かせた淡雪のような歌声が特徴なので、どうしても楽曲の幅が狭くなると感じていました。
ところが今回ファルセットを活かしながらどの曲もころころ表情を変えています。次はどんな曲がくるのだろう、どんな展開が待ってるのだろう、と聴きながらワクワクしていました。
「光」といううつろうものをコンセプトにしたのが見事にハマったのだと思います。
前作の「OOORDER」もバラエティに富んでいてmol-74の新境地!と感動したのですが、今作の「Φ」はmol-74の正統進化と言えます。
淡く儚いmol-74らしさをそのまま全方位に拡大したよう。
「Φ」はこれからもずっと聴き続けるmol-74の代表作になる予感がします。
フランネルと寝顔
最後に今作で個人的に最も好きな「フランネル」と「寝顔」を紹介します。
(夏のドライブにぴったりの「オレンジとブルー」もいいんですけどもね)
8曲目の「フランネル」は後悔とその先にさす光を歌っています。
サビの「片付けない部屋の隅に積んでる 空箱と君のフランネル まだ見えない光の先に飛んでる」という歌詞が好きです。
痛みとその先の光を感じられて、切なくて苦しくても前を見上げることができるような気がします。
10曲目の「寝顔」はギターの調べとベースの高音のソロにうっとりします。
「ねえ」と語りかけるようにして歌に入るのも素敵です。
そしてなにより、歌詞が優しくて美しい!
「触れない星屑よりも 満ち欠けをする月よりも 眩しく射し込む光が ありふれた生活の陰を拭ってくれた」とか。なんかもう、星、月、光、陰、と並んでいるのが……こういうのに弱いんですよね。
サビに入る瞬間にふわっと視界が明るく開けるような構成もすごくいい。毎回、ちょっと泣きそうになります。
「探していた私の居場所が 憧れとは違っていたとしても 目の前で君がただ眠るだけで 今日までのことを愛せる気がして」
一人さみしく過ごしていた頃と、にぎやかで大変だけどまあそれなりに幸せと言える今と。
いろんな記憶を刺激されていろんな感情がこみあげてきます。
今作中一番の名曲だと思うのですがどうでしょうか?
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