2023年5月17日にスピッツのアルバム「ひみつスタジオ」が発売されました。
3年半ぶり17枚目のアルバムになります。
「紫の夜を越えて」「大好物」そして大ヒットの「美しい鰭」と発表したシングルがどれも名曲で、ジャケットはビタミンカラーで元気があふれてる!ってことで、いつも以上に高い期待をもって、ワクワクしながらアルバム全曲を拝聴しました。
数日聴きこんだのでアルバム全体の感想を書きます。
アルバムの流れを追ってみる
ざーっとアルバムを頭から追ってみます。
1曲目から予想外
まず1曲目の「i-o(修理の歌)」が静かな始まりだったことに驚きました。
時間の短い「エトランゼ」を除けば、静かな曲で始まるアルバムは今回が初めてなのではないでしょうか。
出だしがスローテンポだとツカミが弱くなりそうですが、「i-o」はサビでぐんぐん上がっていくタイプの歌なので、気分も上向きになります。1曲目からしっかり心をつかみにきてくれました。
まずはアップテンポじゃなくてスローテンポ始まりということころにスピッツの新しい試みを感じました。
前半(5曲目まで)
2曲目の「跳べ」はタイトルのイメージ通りアップテンポでライブで盛り上がりそうなやつです。
3,4曲目は「大好物」「美しい鰭」です。シングルが続いた後に、5曲目の「さびしくなかった」で少し落ち着きます。
「さびしくなかった」はミディアムテンポでしっとりしているので、前半のちょうどいい区切りになっています。
中盤(9曲目まで)
中盤はまさかのメンバー全員で歌う「オバケのロックバンド」から始まります。
僕はアルバム内容について事前の情報を完全にシャットアウトしていたので(ロッキン・オン・ジャパンも読まずに取っておきました)、Aメロの2番目のパートで崎山さんらしき歌声が聞こえてきたときはびっくりしました。
あまりに意外だったので「え!?草野さんの声をAIで崎山さんっぽく加工してる!?」って、素っ頓狂なことを考えちゃいました。
その後全員のコーラスや田村さん三輪さんのソロパートがあったので「これメンバー全員で歌うやつだー!」ってようやく気づきました。(遅ーっ)
「オバケのロックバンド」は歌の内容も可愛らしいし、みんなで歌ってるのが微笑ましいし、今回のアルバムのハイライトの1つですね。
その後「手毬」「未来未来」「紫の夜を越えて」と続きます。
ここの流れがすごく好きです。
「手毬」で和の心をくすぐる美しいメロディを聴かせた後に、今までのスピッツにない斬新なアレンジの「未来未来」でド肝を抜かせ、すっかり新しい名曲として定着した「紫の夜を越えて」へとつながる。
僕のなかで「未来未来」はザラッとした手触りがある曲なのですが、そのザラッとした刺激の後に「紫の夜を越えて」の三輪さんのきれいなアルペジオが始まると、住みなれた街に帰ってきたような安心感と嬉しさがこみあげてきます。
「紫の夜を越えて」はアルバムの9曲目という中盤の要となるポジションに収まることで、単体で聴いていたとき以上に輝いているなぁと感じました。ますます好きになりました。
後半(13曲目まで)
10曲目の「Sandie」はこれ単体で聴くと地味な印象ですが、中盤最後の「紫〜」と後半の始まりの「ときめきpart1」をうまくつないでると感じます。箸休めで橋渡し。
後半の「ときめきpart1」「讃歌」「めぐりめぐって」の流れもいいですね。
バイオリンをフィーチャーしてきらきらした「ときめき〜」から、コーラスでちょっぴり荘厳さの増した「讃歌」へ。ここでアルバムを締めればいい感じでエンディングを迎えられるのにあえてもう一曲入れてくるのが憎らしい。
ラストの「めぐりめぐって」はがっつりバンドサウンドでアップテンポな曲です。途中に変なテンポダウンが入るのもクセがあっていい。
「醒めない」の「こんにちは」、「見っけ」の「ヤマブキ」とここ3作はアップテンポ終わりなのが自分の好みに合っていて嬉しい限りです。
なんて書いてたら、次回作あたりで草野さんの天邪鬼が発動してバラード終わりになりそうですが。ま、それもそれでありってことで。
流れに隙きがない
こうして最初から最後まで流れを追ってみると、いい流れが続いていて隙きがないですね。
上述したように「Sandie」を介して中盤と後半がうまくつながっているので6曲目の「オバケのロックバンド」からラストの「めぐりめぐって」まで流れが止まらないです。
5曲目の「さびしくなかった」と「オバケ〜」もテンションの差が少ないので(いい意味で「オバケ〜」は気が抜けている)、ここもつながっています。
これは1曲目を聴いたら、ご飯で呼ばれない限りは止めるタイミングがなくて最後まで聴いてしまうパターンですね。
こうなってくると1曲目の「i-o」のややローな始まり方も、「めぐりめぐって」のハイテンションを鎮める効果を狙っているように思えてきます。
つまりは最後まで聴いて盛り上がった気分を落ち着かせるためにまた最初に戻りたくなる。
リピート前提、無限ループ恐るべし!
骨のしっかりした音が好き
「ひみつスタジオ」を初めて全部通して聴いたときに、音がこれまでのスピッツのどのアルバムとも違う、と感じました。
具体的には、
音が質素。
そして骨太。
ギターもベースもドラムも粒がはっきりしていて力強いです。
スピッツで「骨太の音」というと「三日月ロック」「スーベニア」あたりがパッと浮かびます。
ただ「スーベニア」ってごつごつした骨太さに加えて、ストリングスなどの上モノの華やかさも大きいんですよね。骨ががっしりしているうえに、その骨に付いている筋肉も隆々な感じ。
「ひみつスタジオ」はそうじゃない。本当に骨だけが太いイメージ。
ぶっとい骨が骨格模型のようにばっちり見えてる。その骨が4本+1本ある、という感じでしょうか。
4本はもちろんボーカル、ギター、ベース、ドラム(あ、ギターは本当なら2本か)なわけで、各パートがすごくくっきりしている。(特にロックなナンバーな「飛べ」「めぐりめぐって」でその傾向が顕著なように思います)
残りの+1本は「ときめきpart1」のバイオリンだったり「未来未来」や「讃歌」のコーラスだったり。
このバンドの音+α(アルファ)でしっかり骨組されている構成ってすごく好きだなーと思いました。
やっぱりスピッツの音を聴きたいんですよね。スピッツの音だけに集中できるのが最高!と思うのです。
で、そこにときどき1つだけプラスがある。そうすることでスピッツの音が引き立つし、ほどよく変化もある。
僕としてはこの先もずっとこんな感じの音でアルバムを作ってくると嬉しいなーと思ったのでした。
む す び
「ひみつスタジオ」のアルバム全体の感想をざっくり書きました。
個別に見てもいい曲が多いし、アルバム全体の流れもいい。音も太くて、骨まで見えてる。
また名曲も変な曲もどちらも良いという最近のスピッツのアルバムの特徴を「ひみつスタジオ」も踏襲しています。
「紫の夜を越えて」「大好物」「美しい鰭」「ときめきpart1」という名曲をしっかり押さえつつ、「オバケのロックバンド」「未来未来」「めぐりめぐって」といった変てこな曲も、実験的でなく、きっちり完成させてくる。
実際、「オバケのロックバンド」「未来未来」は発売直後にTwitterのトレンドになっていましたしね。変てこなスピッツもみんな大好きなのです。
ただ全体のイメージを一言でまとめるようとするとなかなか難しいですね。
ビタミンカラーのジャケットから「元気が出る!」と言いたいところですが、そこまでハイでもない。もちろんローではないし、聴いているとワクワクしますが、元気元気って推したい感じじゃない。
これぞロックアルバムじゃー!と叫んでもいいのですが、そこまでゴツゴツ・ヘヴィーでもないですし。
なんだろ、やっぱり流れの良さかなー。最初から最後まで淀みなく流れてる。
ワンパターンでもマンネリでもない。どの曲も同じくらいのクオリティの高さを保ったまま、変化も楽しみつつ、それでも淀みなく止まることなく流れてる。
この流れの良さが、アルバムを通して聴く楽しみにつながっていて、ヒット曲がサブスクで切り売りされてるこのご時世にアルバム単位で聴ける喜びを与えてくれる。それがなんだか嬉しくて楽しい。
ということで「ひみつスタジオは流れるまんま流されてもいいアルバム」です!(ん−、強引)
単純にどの曲も甲乙つけがたい良い曲ばかりです。
と言った後でなんですが、おすすめ曲をあげるとしたら①「i-o(修理の歌)」、⑥「オバケのロックバンド」、⑦「手毬」、⑧「未来未来」、⑬「めぐりめぐって」です。※シングル除く
次回はアルバム収録曲の感想を1つずつ書いていきます。
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