【感想】さユり「酸欠少女」|花、自由、ロック!あと背骨

    夏アニメ「リコリスリコイル」のエンディングテーマ「花の塔」がよかったので、8月に発売されたばかりのさユりさんのニューアルバム「酸欠少女」を購入しました。

サユリ「酸欠少女」

ロックだなぁと

   ここ1週間、何度もアルバムをリピートして聴いています。

「花の塔」以外にも良い曲がたくさんあり、激しい音や歌声にロックを感じました。

   一方で引きこもった内側から世界を覗いているような陰のある歌詞や感情が今風だなと。


   個人的には①「酸欠少女」③「航海の唄」⑩「メイレイ」のようなザクザク攻めてくる曲ばかりでなく、⑤「世界の秘密」⑥「葵橋」のような静かな落ち着いた曲や⑪「ねじこ」のようなアコギの弾き語りが映えそうな曲にも良いものがあったのが嬉しい誤算でした。

   おかげで曲の流れに抑揚がついて、アルバムを通して聴いたときに飽きないし、全体のバランスも取れて隙がないです。


花の塔はやっぱ好き

   それにしても「花の塔」はポップで疾走感があっていいですね。

   サビの「君の手を握ってしまったら 孤独を知らないこの街には もう二度と帰ってくることはできないのでしょう」や「君が手を差し伸べた 光で影が生まれる」という歌詞が(青くさいですが)好きです。

   最初、「孤独なこの街」ではなくて「孤独を知らないこの街」ってどういうことなんだろうと疑問に思ったのですが、これは例えばカップルで溢れかえったクリスマスのにぎやかな街のなかをひとりぼっちで歩いているときに感じるあの感覚なのかな。僕だけが孤独で、僕以外は孤独を知らない街。

   君の手を握ったら孤独でなくなるだけでなくて、さらにこの街の外にまで抜け出せる、というのなら、それは素敵だなと。


ザクザクくるやつ

   このアルバムを聴く前に勝手に思い込んでいた「さユり」のイメージは尖っていて触れたら痛そう、でした。

   そのイメージ通りなのが①「酸欠少女」、③「航海の唄」、⑦「月と花束」、⑩「レイメイ」です。

   どれもザクザクと刺してくるような激しさがあり、どの曲も音がロックで、ちょびっと狂気を感じるところがまたよいです。


   ③はドラムもエレキギターもかっこいい。「強さは要らない」と歌うサビも力強いです。

   ⑦はキーボードの音が鋭い。特にサビの歌声と重なりながらキーボードの間奏が始まるところがゾクゾクします。

   ⑩は男性ボーカルとのコラボなのですが、これがすごく似合っている。世界観に厚みが増しています。

   ダークファンタジーみたいなMVもインパクトあります。

   サビで「いつか黎明の元へ」「痛む泥濘の中で」と韻を踏んでいるところがお気に入りです。


僕らは季節を耕す

   先にも書きましたが激しくない静かな曲にも良い曲が多かったのが嬉しかったところです。

   ⑤「世界の秘密」、⑥「葵橋」、⑪「ねじこ」がそれです。


   ⑤はキーボード(ピアノ?)の弾き語りで始まります。「鍵穴を覗けば優しい秘密が」や「今日もあなたはネジを回していく」という歌詞が小さな世界の小さな秘密の物語を話しているようで好きです。


   ⑥は淡々としたなかにギュッと思いが詰まっています。

   サビの「僕らは季節を耕し続ける」という歌詞が好きです。

   サビの前で「言えなかった話がある そして繰り返した 同じ挨拶を」と歌っているので、大きく変化するような行動を起こせないまま、変わらない日常が続いていく感じなのでしょうか。

   だけど全く同じままなのではない。「耕し続けている」と言っているのだから変わらないようでいて、少しずつ築きあげていくものがあるのです、たぶん。

「耕し続ける」に合わせて「赤、青、」や「宝石みたいな花 透明になった花」という歌詞を交ぜてきているのもきれいです。


〆のねじこがいい

   そしてラストの「ねじこ」です。

   冒頭、アコギの音が鳴った時点でもうOK!と言いたくなりました。

   エレキギターの激しい曲が続いた後に、壮大で美麗なバラードじゃなくてアコギをかき鳴らしてがなりたくなるやつを持ってくるというのが、ずるいなと。


   サビの「ねじこぼれた自由を歌え」が非常に印象的です。

「ねじこぼれた」は「ねじれてこぼれた」というような意味の造語でしょうか。

   大海原に広がる自由ではなくて、こぼれるくらいの自由というのが今の状況に合っていて共感できました。

   海のように大きくなくても「こぼれる」から連想できるのはやはり水です。自在に形を変えられる水のように自由に。それが手の中に納まる程度のものだとしても。今あるもので自由に生きたい。


   それから「花のように天に伸ばす背骨」という歌詞が好きです。

   ランニングや登山をしているせいか、曲がっていてもまっすぐでもよく背骨を感じることがあります。


   水のようなねじこぼれる自由と花のように伸びる背骨を常にイメージできれば、日々を生きていけると思うのでした。


まとめ

   おすすめは②「花の塔」、③「航海の唄」、⑥「葵橋」、⑩「レイメイ」、⑪「ねじこ」です。

   激しいやつも静かな曲もどちらにもよいものがあって、朝でも夜でもいつでも何度も聴けるアルバムです。



   今回買った2ndアルバムがよかったので、中古で1stアルバム「ミカヅキの航海」も買ってしまいまいした。

「ミカヅキの航海」もまた聴き込んだら感想を書きたいと思います。


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