【感想】徳永英明「LOVE PERSON」〜愛と感謝と優しいメッセージと

 「LOVE PERSON」は徳永英明の4年ぶり18枚目のオリジナルアルバムです。

徳永英明「LOVE PERSON」初回限定盤 MTV Unplugged Blu-ray付き

   昨年2020年夏に発売予定でしたが、コロナだなんだで1年延びてしまいました。

   4年ぶりといってもこの間にセルフカバーアルバムを2作も出しているので、間がそこまで空いたわけではないのですが、コロナで悶々としていたせいか、発売までが長く感じました。


   待ちに待ったアルバムのテーマは「身近な人への愛と感謝」です。

   それを表すようにタイトル文字が赤色だったり、赤い花をモチーフにしていたり、スーツも赤かったり(還暦だからもある)、とにかく愛=赤にあふれています。

   個人的には「愛」というテーマは小難しくてこっ恥ずかしいのですが、そこはまあ雰囲気で乗り切って(^_^;)


   アルバム全体の感想は最後に回して、いきなり各曲の感想からいきます!!

徳永英明「LOVE PERSON」初回限定盤 MTV Unplugged Blu-ray付き

LOVE PERSON全曲感想

1. ほんとうの君を知って

   イントロの物哀しいフルートの音色が印象的です。

   歌が進むと、一転してエレキギターの力強いストロークによりロック色が強まります。

   吹き荒れる風のなかを、重い下駄を履いて進んでいくようなパワーのある曲です。

「自分を信じてごらん」「ほんとうの君を知って」という歌詞が胸に響きます。


2. You and me

   アルバムに先行してMVも公開されましたし、5月に放送された”SONGS”のなかでも歌ってくださいました。


   この曲は、ほんといい!

   優しい声で始まる歌い出しからして素敵です。


   サビも満点の出来栄え。

   最初は柔らかく歌って、最後はどんどんボルテージが上がっていくところがたまらないです。

   その上がりまくったボルテージのまま「ラララ」とつなぐのもまたいい。ライブで聴いたら間違いなく目頭が熱くなるだろうなぁ。


   歌詞も好きです。

   サビの「一人ぼっちじゃないんだ 二人手を重ねてゆこう」というフレーズは今作の「身近な人への愛」というテーマに一番合ってる気がします。

   最後に「一人ぼっちじゃないんだ」を2回繰り返すところがまた良いです。

   本当に気持ちが詰まっている感じが伝わってきますし、なにより「大事なことだから2回言いました」です!


3. ふたり

   曲としてはそこまで良いと思わないのですが、すごく気になる歌詞があります。

「悲しいことを『悲しみ』と呼ぶように
   違う言葉でごまかしたくない」


   まず悲しいことを「悲しみ」という言葉で呼ぶことは間違っているということがよくわからない。

   次に、この歌詞では何について「ごまかしたくない」と言っているのかがよくわからない。


   この歌詞の前に「わたしにとって『あなた』と呼べるのは 世界にあなたしかいないから」という歌詞が出てきます。「悲しみ」同様に「あなた」にも「」が付いています。

   だとすると「あなた」のことについて語っているのかな。

   でも悲しいことを「悲しみ」と呼ぶことは間違っていてごまかしだったなんて、今まで考えたこともなかったぞ!??

   ということで自分のなかの常識をくつがえす曲です。

   好みでいうと普通なのですが、とても気になる曲なのでした。


4. 頭を空っぽにして

   今作唯一のネタ枠です。

   というと失礼ですが、中毒性があって好きです。

   バラードの多いアルバムにあって、アルバムの幅を広げる役割を果たしてくれている貴重な一曲です。


「頭を空っぽにして 明日も空っぽにして」というシンプルなフレーズを平坦なメロディで繰り返すところがクセになります。

   というか頭のなかにこのフレーズがぐるぐる回りだすと、歌詞に反して頭が空っぽにならない!!

   でもほんといいですね。「頭」と対になっているのが「明日」というのがまた秀逸です。

   言われてみれば、頭の中がすっきりしないときって明日のことを考えていることが多いですもんね。頭を空っぽにしたいなら明日のことも空っぽにしなきゃいけません。


  あと、これは個人の好みの問題ではあるのですが、 歌の最後の「ラララ」はできれば「頭を空っぽにして……」という歌詞をリフレインしながらフェードアウトしていったほうがよかったな〜と思いました。

   

5. 愛のひと

   最初気づかなかったのですが、曲名はアルバムタイトル「LOVE PERSON」の邦訳なのですね。(アイドントスピークエングリッシュ)

   アルバム制作の起点になった歌だそうです。

   内容が抽象的なせいか、いまいち伝わってこない。好みの問題かな。。。


6. 心を鎮めて

「太陽がいっぱい」のコンサートツアーのエンディングフィルムでチラ出しした曲です。

   イントロのギターの音色がトローンとして、心地よいです。

   窓際にロッキンチェアを置いて木漏れ日にあたりながら、うとうととした気分で聴きたくなります。


   しかし、そんな穏やかなイメージとは裏腹にAメロではけっこう怖いことをいっぱい言っている気がします。いがみ合ったり、根っこの古い記憶だったり。

「あなたは鏡 心が揺らぐ」という歌詞もチクッと胸に刺さります。

   僕らを囲む環境は悪くひどいこともいっぱい起きいている。だからこそ「心を鎮めて 自然に還ろう」

   怖さと優しさとが同居している曲だと思います。

「心を鎮めて あなたの胸で眠りたい」と歌う穏やかな歌声と優しいメロディに身を委ねて、ぐっすり眠りたい。。。


7. あの日のポセイドン

   ここから後半戦です。

   この歌は徳永さんがギリシャのポセイドン神殿を訪れたときの実体験をもとに作られたものだそうです。

   他の楽曲とは違う異国のエネルギに満ちあふれています。


   毎回、冒頭の「いつも僕の心臓の音が……」という歌詞の「心臓」にドキッとさせられます。なんでだろ?


8. 人生は一度きり

   やんちゃなハープの音が歌を盛り上げてくれて、楽しい一曲です。

   クレジットを見たら徳永さん本人が吹いているのですね。おお!

   静かな曲が続いたあとなので、後半の良いアクセントにもなってます。目がさめます。


  メロディもサウンドも良いのですが、 個人的には歌詞がいまいち。

「人生は一度きり だから大丈夫」という歌詞がちょっと意味がわからない(笑)

   それと「愛こそがすべて」というフレーズがやや安っぽく感じました。


9. 幸せと愛の唄

   まずタイトルがちょっと苦手。なんていうかこそばゆくなるから。

   歌の内容もベタだし、メロディも構成も歌謡曲のようだし、全部がベタです。

   だけどそれがいい!!

   ストレートなタイトルとストレートな歌詞がかえってド直球で心に飛び込んできます。

   特に好きなのがここ↓

「心がぶつかり合って くだけ散るのが信頼なんだ
   それで笑顔になれればいいんだ
   そこに愛があればいいんだ」

   ちょっとガタガタしていて決してスマートではないけど、この愚直さがいい!なんか響くものがあります。

   こんなふうに畳み掛けるように歌われると、普段は愛とか恥ずかしいからやめてよーと敬遠している人間でも「そ、そうなのかな、愛があれば、うん、まあいいのかもね」とうっかりうなづいてしまいます。


   あと、間奏のフルートが海を渡る鳥のように伸びやかで気持ちがいいです。

   今作はフルートがいい味出している曲が多いですね。


10. 心をあずけて

   ピアノの伴奏のみのシンプルな曲です。

「だから今日も生きてるよ 生きてることにありがとう」「手のひらを大空に合わせて背伸びしたい」という歌詞が好きです。

   心を何にあずけて、と言っているのかがよくわからないですが、空や自然に、ってことなのかな。「僕らは自由なカタチなんだよ」とも言ってたりするので。


   無駄を削ぎ落としたようなシンプル歌詞ゆえに細かいところはもやっとしなくもないですが、雰囲気がいいので気にしません。とても好きな歌です。名曲認定で。


11. 幾千の時を経て

   アルバム「愛をください」に収録されていた曲のセルフカバーバージョンです。

   前作がエレクトロニカ調だったの対して、今作はアコースティックアレンジといったところでしょうか。

   前作にあった浮遊感が減った代わりに、優しさと力強さの成分が増しています。

   どちらのアレンジも好きです。徳永さん(それとも坂本さん?)は名曲の調理の仕方が本当にうまいですね。


   それにしても何度聴いても歌詞もメロディも素敵です。

「幾つの時間を経て生まれ変わってきても 僕はきっと君に恋をしているはずさ」なんてロマンチックな歌詞はふだんは少女漫画みたいで恥ずかしいと感じるのに、するっと心に入ってきます。

   と言いつつ、メロディの口当たりの良さのあまり、無意識にリビングで口ずさんでしまうたびに、妻に聞かれてないかとちょっぴり恥ずかしくなるのでした。(絶対ニヤニヤしてこっちを見てくるので)


12. ゆずり葉の夢

「ゆずり葉」は若葉が生え揃うと古い葉がそれを見届けてから役割を譲るかのように落ちる樹木のことだそうです。

   そんなゆずり葉をモチーフにしていると考えると、歌詞に描かれているのが恋人同士というよりも親と子のように感じられます。

「散る葉落ちる葉 …… それでもひとつ 愛を手渡す」や

「巡り逢えてよかった それがあなたで それが僕たちで」など、世代交代を歌っているようにも。


   恋人にしても家族にしても、悠久の流れの一瞬を切り取っているような世界観がグッと胸に来ます。

   実質的なアルバムラストにふさわしい深みがあります。


13. tomorrow

   ドラマのタイアップにもなっているボーナストラックです。


   歌詞見たら、めっちゃ短っ!演奏時間も3分でめっちゃ短っ!

   歌の構成もAメロだけでめっちゃシンプル!

   数少ないタイアップ曲がこれかい!と思わずツッコミ(^_^;)

  ……なるほど、ボーナストラックという位置づけも納得です。


   でもすごく雰囲気があって良いんですよ、これ。

   哀愁があり、躍動感もあり、エネルギッシュ。

   例えば「哀しくしていても大丈夫」と言うのではなくて「哀しくしていても大丈夫な」と言います。

   それは「もうすでにあなたの心は大丈夫なくらい強い、だから自分を信じて」と言っているのかもしれないし、あるいは「大丈夫なくらい強い心になれるといいよね、きっとできる」と言っているのかもしれない。

   どちらにしても「心」と体言止めすることで、そこに強さが生まれています。

   哀愁のある雰囲気に反して、底から湧き上がる強さと躍動感があります。

   そして「歩こう明日へ」というシンプルなフレーズ。悲しいことを乗り越えて明日へ向かって歩こうというメッセージがはっきりと伝わってきます。


   あと、「潮騒のおおおおお〜の音(ね)」という歌詞の「おお〜」が好きです。「そこそんなにおおお言う!?」ってくらいウネリます。それがまた気持ちいい。


   ただ、アルバムの中でちょっと収まりどころが悪い気がします。

   ボーナストラックなのでラストというのはわかるのですが、ここじゃない感があります。

   個人的には思い切ってオープニングナンバーでもよかったのではないかと思います。

   1曲目が勢いよくバーンっと始まるアルバム好きなので。(「Revolution」「JUSTICE」「愛をください」とか)


「LOVE PERSON」感想

   最後に、アルバム全体の感想を書きます。


   まず第一印象は良くありませんでした。

   だってどの曲も同じに聴こえるのですから。

   単純に同じ単語を使いすぎです。

   テーマが「愛と感謝」なので「愛」と「ありがとう」が曲間でかぶるのは仕方ないにしても「明日」「未来」「幸せ」「光」は多すぎます。

   あと「〜して」という歌詞も多い。「君を知って」「空っぽにして」「心を鎮めて」「これからを信じて」「心をあずけて」など。

「心を鎮めて」「心をあずけて」に至ってはタイトルもかぶってますし。

   それから「ラララ」が多い。4曲くらいあったのではないかと思います。

   今回、歌詞も簡潔なので余計に曲がダブついて感じました。


   この第一印象の悪さは、なんていうか、甘いものをいっぱい食べてやろうと期待してバイキング形式のスイーツ店に入ったら、あんこ系しかなかったみたいな。

  和菓子好きだけど、そればっかりじゃ……っていう。

   もう少しスタッフが精査して歌の内容をバラけさせても良かったのじゃないかなぁと。(素人が偉そうなこと言ってすみません)


   また歌詞も全体的に単調に感じました。

   シンプルで短いのは良いのです。歌詞は短いほど力強さが増しますから。

   ただ、今回はどの歌詞も普遍的過ぎるというか、具体性がないというか……例えば「初めて買った黒いラジオ」や「君に贈るはずの指輪(投げ捨てた)」や「真夏に濡れた白いシャツ」のように情景が浮かんだり、鮮やかで象徴的だったりする上手い小物使いがない。

   もちろん好きな歌詞もあるんですよ。でも徳永英明と山田ひろしの歌詞ワールドはこんなものじゃない、とも思うのです。


   最後にテーマについてです。

   テーマは「身近な人への愛と感謝」ということですが、「愛と感謝」はわかるのですが、「身近な人へ」という点は微妙だと感じました。

   身近な人というよりはもっと普遍的なものを歌っている気がします。

   良いか悪いかではなくてちょっとテーマに沿ってなく感じました。

   そして個人的にはもっと身近な人へ寄っていたら、もっと好きなアルバムになっていたと思います。そこがちょっと残念でした。


   と、ここまで書くと本アルバムの評価は低いと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

   一曲一曲は良いんですよ。

   今の徳永さんだからこそ出せる味わい深さがあり、優しさとちょっぴりの辛さの混じった曲はどれも魅力的です。

   サウンドも素晴らしいです。いくつかの曲ではフルートが効果的に使われていて、徳永さんの歌の世界をグッと広げてくれています。

   また徳永さんの歌声も柔らかくて伸びやかで、歌の世界を高純度に昇華してくれています。

   今回、ほんとサウンドと歌声の重なり方が素敵です。徳永英明にしか出せない世界を聞かせてくれます。惚れ直しました。そして坂本さんの仕事、最高。


   でも、繰り返しになりますが、どの曲も同じ傾向過ぎると思うんですよね……同じような曲がかたまりになっていると、アルバムの評価としてはちょっと辛口になってしまいます。

   僕はたまたま発売翌日に丸一日リピートしまくって聴くことができたので、一日かけて耳に馴染み、アルバムの評価は一気に上がりました。

   なので、初見でピンとこなかった人は何度もリピートしてみてください。きっと好きな曲がみつかるはず。


   もっとも好みもあるので、どの曲も同じ傾向に聴こえるのは僕だけなのかもしれません。他の人は全然違うように感じてるのかな。他の感想がすごく気になります。


まとめ

    厳しいことも書きましたが、アルバム「LOVE PERSON」はテーマに掲げている「愛と感謝」にあふれています。

   コロナ禍で先の不安なこの時代に、徳永さんは明日へとつながる優しいメッセージを届けてくれました。

   一人ぼっちじゃない、手を重ねよう。巡り逢えてよかった。歩こう明日へ。

   そして頭を空っぽにしよう!


   おすすめは②「You and me」④「頭を空っぽにして」⑥「心を鎮めて」⑨「幸せと愛の唄」⑩「心をあずけて」⑪「幾千の時を経て」⑬「tomorrow」です。

   身近な人にちょっと感謝して、明日ちょっとがんばろう、という気持ちになれます。


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