森見登美彦「夜行」感想 〜怪談×ファンタジーが読みたいなら

   森見登美彦は好きな作家の一人です。
   初めて読んだ「夜は短し歩けよ乙女」でファンになり、それからは文庫が出るたびにちょくちょく買って読んでます。
森見登美彦「夜行」(Amazon)


   森見登美彦には「阿呆の話」と「怪談」という2つのジャンルがあります。
   今作「夜行」は後者の「怪談」にあたります。
   これまでの怪談ものでは「きつねのはなし」がぞっとして魅了されましたが、「夜行」はより洗練され、極上の怪談ものとして仕上がっていました。

   物語はオムニバス形式になっています。4人の登場人物がそれぞれ「夜行」という連作絵画にかかわる話をします。
   どの話も夜が舞台でうすら寒くなります。なかなかこわいです。
   最後に主人公(?)の大橋くんが今まさに体験していることを語って終わります。
   5つの話がそれぞれなんとなくつながっているようなつながっていないような感じで、はっきりとした真相に近づくわけでもなく、わかったようなわからんような作りなのが、個人的には好きです。
   不気味さの余地がある、といえばいいのでしょうか。はっきりしないからこその怖さがある。かといって文脈不明ということもない。

   また各章では、過去の話を語っているはずなのに、ラストは現在進行形になっているのも特徴的です。
   いつのまにか読んでいる自分も不思議な世界に入り込み、今まさに恐怖を体験しているような気分になります。
   この感覚は泉鏡花の「眉かくしの霊」で体験したものに近いかもしれません。

   怪談ものとして面白いですし、なにより小説でしか表現できないものを表現しているのが非常にいい。(映像化するとたぶんこの怖さは出せない)
   唯一の不満は、文庫の裏に書いてある説明と内容とがちょっと合っていないところでしょうか。
「……長谷川さんに再開できるだろうか。怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語」という宣伝文句から、恋愛ファンタジーを想像すると、読み終わったあとにちょっと微妙に思うかもしれません。
   最初から、怪談×ファンタジーとして読めば、きっと満足のいくものが得られると思います。
   夜にひんやりとした気分を味わいたいときにおすすめです!