村田沙耶香「消滅世界」感想 〜家族は今の形でなくていいのかもしれない

   同じ作者の「コンビニ人間」が面白かったので。
村田沙耶香「消滅世界」(Amazon)

   ストーリー的なことは置いておいて、純粋に世界設定が面白かったです。
   この世界では、セックスではなく人工授精で子供を生むことが常識となっている。
   恋愛はヒトだけではなくキャラクターともするのがあたりまえ。
   結婚しても夫婦間でセックスすることはなく、むしろセックスしたら近親相姦と非難される。
    そのため、恋愛は夫婦間でするのではなく、夫婦以外のヒトとしたり、キャラクターとしてたりする。
    作中ではうまくいかない旦那の恋愛を妻が応援するシーンも出てきます。

    そもそも人工授精で子供を生むのでセックスが無用となっており、セックスをしたことのない人も多い。年々、欲求を満たすためのセックスをする人口は減っていく。

   そんな世界のどこがいいの?と思うかもしれません。
   しかし、読んでいたら案外気楽でいいなと感じました。
   冷静にふりかえってみると、恋愛、セックス、出産、育児、パートナーといったものを全部、家族(=夫婦)という一つのシステムでやろうとするから苦労したり辛かったりするんだと思います。
   これらをバラバラに分けて、それでも残るものを「家族」(そばで寄り添ってくれる人)とするなら、もっと楽に生きれる気がします。

   小説の後半ではさらに世界は進化して、上のような形の「家族」すらなくなります。
   生まれてくる子供は誰のものでもなく、「子供ちゃん」と呼ばれ、その町に住むみんなのこどもです。そしてその町の大人は男も女もみんな「お母さん」なのです。
   それが一番子供にとってよい環境だというのですね。たしかに、これなら出自による不平等はなく、みな公平です。

   ここまでくるとさすがについていけなくてぞっとしますが、でも、これはプラトンが考えていた教育論のなかにすでにあった気がします。生まれてきた子はすぐに親から取り上げて、国が預かって教育すべきだって。(違ったかな。アリストテレスだったかも)

   何千年も前から考えられていることを、何度も繰り返し、悩んでいる。
   ただテクノロジーは発展しているから、もしかしたら答えに形が与えられる日も近いのかもしれません。
   そのとき自分がどうなっているのかはわかりませんが。