君に触れたい ~スピッツ「日なたの窓に憧れて」感想

「日なたの窓に憧れて」はスピッツの3rdアルバム「惑星のかけら」の9曲目に収録されています。

1.

   まず「日なたの窓に憧れて」というタイトルが素敵です。文学の匂いがします。
   次にイントロのピコピコとしたキーボード(シーケンサー?)の音がかわいらしいです。このピコピコを聴いただけでちょっと爽快になります。
   メロディは切ないなかにあたたかさがあり、静かななかに高揚感があります。

   そして歌詞は初期の草野さんにしてはグロテスク(?)な感じがなく、良い意味で青くさい。
   いきなり「君が世界だと気づいた日から」とセカイ系を先取りしたような文章から始まり、2題目の冒頭で「日なたの窓に憧れてたんだ」とタイトル回収し、最後のBメロで「僕が欲しいのは優しい嘘じゃなくて」と吐露します。「優しいふりだっていいから」と歌う「君が思い出になる前に」とは対称的なのが興味深いです。
   イケイケで距離を縮めたいときは「優しい嘘」を拒み、別れが近いときは「優しいふり」を求めるというのが実に人間くさい。気持ちに素直だなーと思います。

2.

   この歌を聴いた十代のころに一番惹かれたのはサビの「君に触れたい」という歌詞でした。
   今はそんなに珍しくないのかもしれませんが、君を見つめるでもなく、君を抱きしめるでもなく、君にキスをするでもなく、「君に触れる」というのが、当時は新鮮でした。
   見つめるよりも距離が近く、抱きしめるよりも距離感が遠い。キスするよりも控えめなのに、かえって生身の肌を感じさせ、エロい。それが「触れたい」ということです。
  ああ、この絶妙なさじ加減!なんと素晴らしい。十代男子学生の欲望を忠実に表しています。

   十代の(モテナイ)男子学生なんてみんな「君に触れたい症候群」にかかっていますからね。この歌を聴いて、心の底に沈殿している行き場のないドロドロの想いに言葉を与えられ、解放された野郎どもは多かったのではないでしょうか。(そうでもない?)

   とどめは「瞳の奥へ 僕を沈めてくれ」です。
   触れるという小さな行為を皮切りに、君のなかへとどっぷり深く落ちていこうとしている。
   エロスの深淵を覗き見た気がします。

3.

「日なたの窓に憧れて」は初期のスピッツの歌のなかではストレートかつシンプルな名曲だと思います。
   唯一の弱点はスピッツの歌にしては長すぎるところでしょうか。
   個人的な好みの演奏時間は3分半なので、5分超えは、ちょっと惜しい。