流れていく時間に心が震える ~「さよならの朝に約束の花をかざろう」感想

   2018年に公開された映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」をBlu-rayで鑑賞しました。

   最初に簡単に感想を述べると、長く単調になりかねないテーマを、美しい映像と様々な人間模様で抑揚をつけながら見事にまとめ上げていて、最初から最後まで、心のやわらかい部分が震えました。
   不満な点もいくつかありますが、おもしろかったです。
   何度も観返したいと思いましたし、新海誠のここ最近の2作(君の名は。と天気の子)とは違うベクトルのアニメ映画を求めている人におすすめしたい映画です。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」BDと公式設定資料集

ネタバレなしの感想

映画の概要

   映画の概要はこんな感じです↓
   十代半ばで外見の成長が止まり数百年の寿命を持つ一族「イオルフ」は人間たちの街から離れた土地でヒビオルという布を織りながらひっそりと暮らしている。しかしあるとき里にメザーデ軍が攻めてくる。主人公の少女「マキア」は里の外へと運よく逃げのび、そこで孤児の赤ん坊を拾う。赤ん坊に「エリアル」という名前をつけ、マキアはエリアルのお母さんになろうと必死で育てる。時がたっても少女のままの姿のマキアと、成長し大人になっていくエリアル。やがて戦争が始まり……というお話。

「さよなら」というタイトルや、「出会いと別れの物語」というコピー、そして主人公の一族が長寿という設定から、だいたい想像がつくように、人間の子供エリアルが赤ん坊から成長して大人になるまでの長い年月を描いた映画です。

観る前の不安点

   この映画に興味を持って、これから観ようかどうか迷っている方は、「長い年月を追う」というところが引っかかるのではないでしょうか?
「単調ではないか」「長すぎて飽きないか」「一つ一つの話が引き延ばされて薄っぺらくなっていないか」ーー僕もそんな風に思って、一年ほど観ることを躊躇してました。

   長さについては、1時間55分で、2時間を切っていますので、映画としては標準的な長さです。

「単調だった」というレビューをネットでいくつか見ましたが、静かな場面も多くたしかに淡々とした面もありますが、それ故に叙事的な良さがあります。
   エリアルが少しずつ大きくなっていく姿だったり、一か所にとどまらず様々な土地に移動して生活したり、マキアとエリアルの関係性が徐々に変わっていったりと、物語はしっかり変化しています。淡々としているから退屈ということはないです。

   また、時間の経過については、カットするところはばっさりとカットしているので、一つ一つの話がしっかり描かれており、引き延ばされて薄っぺらくなるということはありませんでした。(それ故にカットせずに見たかったと思える年代もあったりしますが)

   一方、ネットレビューでは「号泣した」という感想もありましたが、自分はそうではなかったですね。
   主人公たちとともに長い歳月を過ごしたような気持ちになるので、どちらかというと、静かな感動が波のように繰り返しやってくる感じでした。

映画の見どころ

   ネタバレに触れずに見どころを箇条書きします。
  • 異世界らしい美しい風景や架空の生き物が魅力的
  • 中盤までマキアたちは町から町へと旅するのでロードムービーのような面白さがある
  • 少しずつ成長してくエリアルの姿を見るのが楽しい
  • 変わっていくエリアルとマキアとの関係性に切なくなる
   僕は冒頭の10分間で映画の世界に引き込まれました。
   イオルフの里の風景の美しさ、そこで暮らす人々の美しさ、そして僅か10分の間に起こる怒涛の展開。

    また、「意外と」というと失礼かもしれませんが、登場人物がかわいいです。
   薄いタッチのキャラクターは萌えとは無関係かなと思っていましたが、劇中では表情が豊かでよく動くし、なんとも可愛いのです。マキアやエリアル(幼少期)の笑顔に癒されました。
   最初は暗い表情ばかりだったマキアが少しずつ快活になり、笑顔が増えていく前半から中盤は観ていて気持ちがよかったです。

事前に書かれていない見どころ

   事前の宣伝だけだと、マキアとエリアルを中心とした物語のように見えますが(まあ8割方そうなのですが)、実際にはもう一つの物語軸があります。それはマキアの幼馴染の少女「レイリア」です。
   彼女は冒頭の襲撃で王宮に捕らわれてしまい、マキアとは真逆の人生を歩むことになります。
   レイリアの存在が、マキアの外の物語をうまく見せる役割を果たすと同時に、映画のテーマにより一層の深さを与えています。

静かな感動が待ってる

   映画を観ている間、ずっと心が震えていました。
  ファンタジー映画らしいアクションの見せ場もありますが、全編を通して感じたのは、   大切な人とともに日々を必死に生きていく、ただそれだけのことがなんと尊いのだろう、ということです。
   淡々と過ぎていく日々のなかにある喜びや、ともに成長していくことの素晴らしさを教えてもらいました。
    主人公たちに共感し彼らとともに同じ時間を過ごせたなら、きっと最後に静かな感動が待っていると思います。

   以上、ネタバレなしの感想でした。
   次に、購入したBlu-rayの話を挟んで、ネタバレありの感想に続きます。




通常盤BDの中身は??

   お布施も兼ねてなるべく円盤を買うようにしているのですが、お金がないので、最近はどのアニメも通常盤でしか買っていません。
   今回ももちろん買ったのは通常盤です。泣
「さよならの朝に約束の花をかざろう」の通常盤の中身はこちら!!

   はい、薄いブックレットも何もなしです。Discのみ。しょぼーん。
   ごてごてした特典はなくてもいいので、せめて16Pくらいのブックレットはほしいです。
   お願いします、メーカーさん!!

   とはいえ、無いものは仕方ない。映画の世界にどっぷりはまってしまい、どうしても気になって仕方ないので、公式設定集を別途注文しちゃいました。
   結局散財してるやん!!っていうね……


映画のよかった点(ネタバレあり)

   後半では、ネタバレありで「さよ朝」の好きなところや、不満点をつらつらと書いてみます。
   特に書きたいのは不満点です。
   だって、すごく面白くてすごく世界観に引き込まれたのに、100点には届かないんですもの。もどかしいし、惜しいし、悔しい!

   まずはよかったところから。

①レイリアが飛ぶところ

   冒頭で、レイリアが湖に飛び込むシーンがすごくいい。
   青色の空をバックに飛ぶレイリアが鳥みたい。自由を体全部で表している。それ故に、そのあとに待ってる彼女の運命を思うと辛いものがありますが。

   この飛び込みはラスト間近のシーンともつながっていて、この映画全体を通した象徴的なシーンだと思います。
   最初は飛べなかったマキアが最後にはレトナ(翼竜?)の背に乗って飛び、飛ぶことを忘れたレイリアを助け、二人で空を飛んでいく、というのが、長い旅を通してマキアが成長し、レイリアに追いついたことを表していて、感慨深いです。(映像的にもきれいで爽快ですし)

② 光る青い花

   夜、レイリアとクリムの二人がこっそり会っているのを見たマキアの目から涙がこぼれます。同時に青い花が光(胞子?)を放ち、その光が空へと舞っていくシーンが幻想的で美しいです。
   そしてこの花も伝説の花であり、外の世界では決して花を咲かせない、というのがなんとも儚い。外へと連れ出されたイオルフの民の運命と重なります。

③ ドレイルの酒場で働くマキア

   鉄鋼の街の酒場(食堂?)で働くマキアが町娘みたいでかわいいです。髪を青色のリボンで巻いているのがちょっとおしゃれ。たくさんのお客の注文をうまくこなしながら、快活に動いてる姿が魅力的でした。
   ここにラピュタのドーラ海賊団の息子たちがいたら、一言「いい」と漏らしていそうです。

④戦争のなかのエリアルの選択

    クライマックスの戦乱のさなか、兵士となったエリアルがマキアを探しに行くのではなく、国を守る(=家族や仲間を守る)ために戦うことを選びます。この選択が、個人的にはグッときました。
   このあと、エリアルが負傷しながらも家族のもとに帰り、生まれてきた子供を抱きしめるのを見たときに、心からよかったと思えるのは、エリアルが戦うことを選び家族を守ろうとしたからだと思います。
   もしもマキアを選んでいたら、なんだかどっちつかずで勝手だなーっと興覚めしていたかもしれません。
   ただ、エリアル(息子)がマキア(母親)を守る姿を見たかったというのも正直あります。

⑤ 親子を軸に描いているという一貫性

   登場人物もたくさん出てくるし、時代も流れるし、戦争も起きるしで、内容は壮大ですが、テーマが親子にしぼられているところが良かったと思います。
   マキアとエリアル、レイリアとメドルド、さらにはミドやディダなど。

   特に、マキアとレイリアで真逆なのが印象的です。
   マキアは義理の子供のエリアルを「忘れない」と言い、レイリアは実娘に「忘れなさい」と言う。過ごした環境によって親子の関係も変わるということでしょうか。
   最初から最後までマキアとレイリアの対比は見事としか言いようがないです。

⑥ 「必死さを」

   戦いが終わった後に、エリアルがこれまで胸の内にためていた思いをマキアに伝えるシーンがあり、そこで言った言葉が好きです。
「あなたが教えてくれたんだ。優しさを、強さを、必死さを、誰かを愛する気持ちを」

   この台詞にエリアルがマキアとともに暮らしていた日々や、離れて暮らしていた月日の全てがこめられています。
   特に「必死さを」という言葉が好きです。
「必死さ」には結果は伴っていないかもしれない。でも必死にがんばっていることを誰かが見て、次につなげられたら、きっとそこに意味がある。
   なんかいいなぁと思えるのです。

   他にも、エリアルがディダと生まれたばかりの赤ん坊を抱きしめながら語った言葉もいいです。
「母さんが育てくれた俺はお前を愛していく」
   里を追われたマキアの長い旅が実った瞬間なのではないでしょうか。

   最後のマキアの別れのシーンでタンポポの綿が飛んでいく演出。
「苦しいだけじゃない別れを教えてくれた」
「また新たな別れに出会うために」
   というイゾルの台詞など。

   ラストは畳みかけるようにグッとくるシーンが続きますね。
   うん、いい映画です。あらためてそう思います。


   で、不満点です。
   仕方ないことですが、不満点があるとどうしても80点止まりになってしまいます。
   とてもいい映画だっただけに、100点に届かないのが悔しい。
   ここはこうしてほしかった、もっとここにあれを、みたいなのがいくつかあります。
   そんなところを書いてみます。

映画の不満な点(ネタバレあり)

① 少年時代のエリアルをもう少し見たかった

   尺の関係でどうしても仕方ないこととわかってはいるのですが、雨のメザーテの宿からドレイルで働くまでの間の時代のエリアルを見たかったです。
   そのころはエリアルも大きくなりマキアを助けたりもして、生活にも少し余裕が生まれて一番充実していた時期なのではないでしょうか。エリアルは昔ほどお母さん好き好きではなくて、ツンデレのツンが入ってきたころだと思いますが、そんなプチツンなエリアルに助けられて「ありがとう」と言うマキアを見たかったなぁと。

② マキアが監禁されてから戦争になるまでが急すぎる

   ラストの戦争編では、年代も飛びますし、話も急に大きく展開しますし、そのうえ登場人物の相関図までガラッと変わっていて、初見では頭と心が状況についていきませんでした。
   これまで長く連れ添い心を通わせていた人物たちとは全く別の誰かの物語を見ているようで、画面のなかの一人一人に感情移入できないまま、話がガンガン進んでいき、勝手に盛り上がっていきます。
   置いてけぼりにされた気持ちばかりが募りました。
   ここで若干トーンダウンした人は多いのではないでしょうか。

   せめて、ディダとエリアルの出会いのシーンをうまくはさむか、あるいはエリアルがマキアのことを思い出すような、昔の名残を感じさせるようなシーンがほしかったです。例えば、部屋の壁に飾ったヒビオルをエリオルが指でなぞる様子とか。

③ それでもエリアルがマキアを守る姿を見たかった

   戦争中に、エリアルがマキアのもとに行かずに、ラングたちとともに敵兵と戦うことを選んだのは正しいと思います。
   そこでマキアを選ぶようでは、ラストでディダと赤ん坊を抱く資格はないし、赤ん坊と対面したあのシーンの感動も嘘くさくなってしまいます。
   でも、それでも、やはり、言葉通り約束を守って、成長したエリアルがマキアを守る姿を見たかったです。

   たとえば、戦場でエリアルとマキアがすれ違うシーンがありましたが、あのとき、エリアルがマキアとは知らずに、あくまで民間人を助けるような形でもいいので、マキアを敵兵の攻撃から守るシーンがもしもあったなら。。。
   強くなったエリアルがマキアを守る姿を見ることができていたら、自分のなかにわだかまるモヤっとしたものの半分はなかったのではないかと思います。

   やっぱり男の子なのだから直接戦って女の子を守る雄姿を見せてほしかったですね。
   それが無いことがほんとに悔しいです。

まとめ

   いろいろ不満はあります。
   一大叙事詩のような映画はどうしても場面の取捨選択があるので、カットされた場面への不満は多かれ少なかれ出てきてしまいます。
   それでも映像や音楽の美しさ、そこに流れる時間の美しさには素晴らしいものがありました。
   また、親子とは何か、生きるとは何か、別れとは何か、いろいろ考えされられました。
   しかし、それよりもなによりも、こんなにも登場人物を愛おしく感じる映画にはそうそうお目にかかれないと思いました。
   マキアが、エリアルが、レイリアが、クリムが。みんな必死に生きていて、切ないくらい愛おしいです。

   まだまだ消化しきれていないところもあるので、また繰り返し観るつもりです。
   それで不満に感じていたところが消えるといいな。