大きな雨粒が踊ってる ~新海誠「言の葉の庭」感想と見どころ

   先日、雨の夜になんとなく新海誠監督の「言の葉の庭」を観なおしてました。
   数年ぶり2度目の鑑賞です。
新海誠 言の葉の庭 blu-ray

雨の映画

   映画の概要を一言でいうと「靴職人を目指す高校生タカオと年上の女性ユキノとが雨の日だけ逢瀬を重ねる」というお話です。
   なので、映画のなかではほとんど雨が降っています。

   この日は実際に雨が降っていたので、開け放った窓から入り込んでくる雨の音と、映画のなかの雨の音とが混じり合い、自然なサラウンドが生まれていました。現実と虚構の聴覚的な境界があいまいになり、なんだか不思議な体験でした。
   雨の日に雨の映画を観るというのもよいものですね。

   自分の記憶のなかでは劇中の雨の描写はもっと繊細で写実的だったのですが、あらためて観てみると、雨の粒が大きい!
   地面に落ちた雨粒が大きな王冠をつくって弾けるところは、現実もあれくらい大きく跳ねてるのか、それともデフォルメなのか、とても気になりました。
   細いレースのような雨もあれば、太い雨もあり。いろいろな雨が描かれています。

   また、雨が、主人公の感情に合わせて変化します。
   主人公が嬉しくなる場面では、地面に落ちた雨が踊るように跳ね、主人公が激高する場面では、雨がたたきつけるように激しく降ります。
   雨が感情を持っていて面白いです。

   ストーリーは淡々としていて、自然の描写が美しいので、なんとなく雨の日にぼおーっと観るのに適しています。
   時間も46分と短いので、一日の作業が終わった23時ごろから観始めても、時計の針が明日に回る前に観終わることができます。

「言の葉の庭」の見どころ

   まずは何と言っても雨の描写です。雨を含めた自然描写が美しいです。
   雨がいろいろな表情を見せてくれるので見ていて楽しいです。

   二つ目は、靴職人を目指すタカオが年上の女性であるユキノの靴を作るために彼女の足を採寸するシーンです。裸を見せるわけでもないのに、なんだか艶めかしいのです。見ていると思春期の少年のようにどきどきしてしまいます。

最後に不満が残る映画

   とても雰囲気の良い映画です。雨の日に観たくなるし、雨がよく似合っている。
   前半から中盤にかけては、いろいろな雨の模様を描写しつつモノローグを交えながら淡々と進んでいくので、とても好きです。
   しかし最後に不満が残ります。

   クライマックスでは、これまでの静かな描写が嘘だったかのように、感情が大きくうねり、物語は大きく盛り上がります。
   しかしこの盛り上がりに僕はついていけない。初見のときも、そして再視聴した今回も。
   主役の男女二人に全く感情移入できず、置いてけぼりを食らった感があります。

   中盤までのような一歩引いた描写を最後まで一貫してやってくれた方がよかったのに、と僕は思います。
   最後の部分をどうとらえるか(映画として成功なのか失敗なのか、あるいは意図したものを伝えられているのか)でこの映画の評価も大きく変わってくると思うのですが、今のところ、自分はあの最期を飲み込めそうにありません。

   僕がこれからもっといろいろな人生経験を積んだり、いろんな人と出会って話を聞いたりしていくことでまた印象が変わるのかもしれませんが。