バラードとロックの絶妙なバランス! ~徳永英明「bless」感想

「bless」は1997年に発売された徳永英明の10枚目のアルバムです。

   僕が十代のときに発売された最後のオリジナルアルバムということもあり、個人的には「太陽の少年」同様思い入れの強いアルバムです。ライブも観に行きました。
徳永英明「bless」(Amazon)

”bless”の特徴

   前作「太陽の少年」はメッセージソングが主体だったのに対して、今作「bless」は徳永英明の代名詞でもあるバラードが多く収録されています。「太陽がいっぱい」「誓い」「SMILE」などです。
   それでいて、ハードでアップテンポな曲も多い。ロックな「情熱」「ROUGH DIAMOND」や、ダンスミュージックっぽい「Balance」などです。
   バラードとノリのいい曲がバランスよく収められているため、徳永英明のバラードを堪能しつつ、激しく飛び跳ねることもOK、という実に素晴らしいアルバムです。

   それから、ジャケットが徳永さんの顔の斜めからのドアップというのも大きな特徴です。暗めの写真なのですが、陰影によって、むしろ光の方を意識するようにできていて、静かな趣きのある写真だと思います。

   ところで当時の雑誌のインタビューのなかで「やっと自分の気に入った写真家と出会えた」と話していたことを覚えています。このアルバム含めて直近のシングルのジャケットがどれもご尊顔のドアップなんですよね。
   ナルシストか!!って心のなかで思わず突っこんでしまいました。

   以下、曲ごとの感想です。

1.太陽がいっぱい

   優しくてあたたかい歌です。メロディも歌詞も歌声もどれも素敵。
「雪の下で眠る種達は やがて来る春を知ってる」
「転ばないで歩くことだけが偉いわけじゃないさ そうだろ」
   など、そっと励ましてくれる歌詞に、何度救われたことか。
   柔らかく包み込むようなメロディは、ついつい口ずさみたくなります。

   むかしライブのMCで「本当は『誓い』じゃなくてこっちをシングルにしたかったんだけど(キーボードの)後藤さんが間奏が難しいって言うからやめました」と言っていたような。(記憶違いだったらすみません)
   間奏のピアノも好きです!!

2.誓い

   アルバムの先行シングルとして発売されました。
   別れの季節に、新たな日々にむかって、もう一度気持ちを確かめ誓い合う。卒業シーズンによく似合うラブソングです。
「君のことしか愛せない」というストレートなサビが、十代の自分にはなかなかちょっと恥ずかしかったです。まあ、今でも恥ずかしいですが。

   この歌の思い出と言えば、十代のころによくカラオケで歌っていたことです。
   一番高い音がG#なのですが(サビの「君のことしか」のところ)、僕のキーだとGが精いっぱいで、うまく高音が出ないんですよ。悔しいのでカラオケに行くたびに、徳永英明好きの別の友達とよく頑張って歌ってました。
   ちなみに、この歌はハ長調からわざわざキーを1個上げているんですよね。憎らしい。笑

3.Promised Snow

   ゲレンデでBGMとして流れてたら、気持ちよく滑走できそう。
   でもスキーを滑れないんです、残念。雪国育ちなのに。

4.Crack

   単語を羅列したAメロのスタッカート気味のリズムが好きです。
   並べられている単語がちょっと不穏な感じなのもいい。

5.情熱

   めちゃめちゃロックです。激しくてかっこいい!
   徳永英明はバラード以外にも名曲があるんだということを堂々とアピールしてくれてます。

   歌詞は激しく辛口です。
「世間の風と同じルートたどってないか」「戦いもせず痛みも知らず過保護なままで」
「ゼロになることは恐れないで」「君の夢はこんなもんじゃない」
   など、40代の社会人には胸に痛い歌詞があふれてます。
   なんというか、全然優しくない。笑
   まあ、でもこれくらい叱咤されないと動けない年齢になってきた気もしますね。はい、がんばります。

   ところで、「大胆に永遠に生きてみたいと思わないか」というBメロの歌詞が地味にツボにはまってます。
   それってどんな生き方なんだろ。よくわからないけど、なんか魅力的。

   のちにシングルカットされたのですが、最初は情報があやふやで、CDショップの発売予定表には「徳永英明/Lady」と書かれていたりしました。(うちの地元だけ?)

6.Balance

   ノリがよくて曲調も明るいので聴いていると楽しくなります。
   ピンポイントですが、Cメロの「次の汽車に飛び乗ろう 手をつなごう」のところの跳ねた感じが好きです。
   最後の歌詞の「いつまでも……」の部分が不安定でゆらゆらしているように感じるのは、タイトルのとおりバランスを取っているイメージだからですかね。。。

7.ROUGH DIAMOND

  力強いサウンドとメロディが特徴です。「情熱」とはまた違うかっこよさがあります。ブリティッシュロックというジャンルに当たるそうです。

「愛はここにあるさ」と高らかにに歌うサビが気持ちいいです。
   また「青空だけが 僕を知ってる …… 永遠なんて欲しがらないで今日を生きろ と言った」という2題目のストーリーがちょっと好き。

   当時の雑誌で「次の新曲は傑作なのでチャート10位内に入ります!」と宣言していたのに、20以内で終わってしまったという、ちょっと残念なシングル。
   シングル版よりもアルバム版の方がアレンジが良く音も厚いので、最初からアルバム版で出ていればもう少し順位も伸びたのではないかと思います。

「傷つきながら なけなしの勇気だけ 握りしめていこう」という歌詞はライブで聴いたら、力をもらえそう。また歌ってほしいです。

8.Be My Love

   好きな人にデートをすっぽかされて空しく帰っていくという悲惨な状況を、雰囲気たっぷりにかっこよく歌った歌。
   女性編集者の方に「こんな男性はダメ」と言われたとかなんとか。
   アダルトな雰囲気がすごくいいのに、歌詞がなぜこんなのなんだろ……

9. ALL MY LOVE

   地球創生を歌うスケールの大きな歌です。壮大きすぎて、ある意味、今作のギャグ枠なのではないかと思ってしまいます。
   というと否定的に聞こえますが、インパクトと中毒性は今作随一です。
   特に「ALL MY LOVE WITH YOU」というサビがクセになり、日常で思わずポロっと歌ってしまうことも。

10. 夢

   7分と長い曲です。
   シンプルなタイトルと、シンプルなサビが特徴です。
   正直に言うと、メッセージソングとしてはよくわからない歌でした。

   Aメロはわかる。「流れ星をいくつ数えても……僕は何を期待してたんだ」「胸いっぱいにこぼれた夢が……手のひらをすり抜けてこの空に溶けた」
   思春期にこうした経験や感情を持ったことがある人は多いのではないでしょうか。
   特に「冷たい地面に背中をくっつけて」という歌詞は個人的なツボです。夜の地面に寝転がって遠くに思いをはせたことを思い出します。

   でもサビがよくわからない。「僕らの夢はまた今始まっていくよ」「Hello Hello Hello それが僕と君の夢」
   夢はまた始まるって、いつ始まったの?
   それ、とはどれのこと?
   いまいちピンと来ません。

   そう、この歌はAメロで夢に迷っている風なのに、サビではいきなり夢が近づいてきていて、その間がないんですよ。
   Aメロですごく共感した後に、いきなり突き放された感じ。
  それがどうしても苦手でした。

   きっと徳永さんは夢が始まることの喜びを歌うことで、夢を追う人に、明るいイメージを想像させて、励まそうとしていたのだと思います。
   でも何も上手くいかず、夢が始まらなかった自分のような人間にとっては、それがよくわからなかったのでした。

   ……と、ここまで書いておきながら、聞き返してみると、そんなにAメロとサビに乖離を感じませんでした。あれ?
   2回あるABメロのうち、2回目のABメロが1回目のABメロとサビとを取り持っているので、思っていたよりもAメロからサビまでがすんなりとつながっていました。
   んー、自分が夢に対して卑屈過ぎただけだったのかしらん。良い曲なんですけどもね。

11.SMILE

   シングル曲です。たしか11月に発売されました。人肌が恋しくなる季節にぴったりのあたたかくて優しい歌です。

   すごく好きな歌で、今でもよく帰り道に自転車に乗りながら歌っています。
   でも第一印象はあまりよくありませんでした。

   初めて聴いたのは学生時代、学園祭の準備で電気部に残っていたときのことです。
   夜の作業中に、ラジオから徳永英明の新曲「SMILE」が流れてきたのです。
   部員みんな作業の手を止めてラジオに耳を傾けます。美しいイントロとAメロ、そして静かに盛り上がるBメロ。サビへの期待がだんだんと高まっていきます。
   ところが聴き終わってからみんなして(自分も含めて)、うーんと首をかしげてしまいました。
   何故なら「ずっとずっとそばにいるからいいね」をちょっと言葉を変えながら6回繰り返すサビが単調で、サビがいまいち盛り上がらなかったからです。Bメロまでがよかっただけに、余計にサビで肩透かしを食らった気分でした。
   
   第一印象が悪いし、演奏時間も6分台と長いので、なかなか人に勧めづらい歌ではあります。(ついでにカラオケでも選曲しづらい)
   ですが今では徳永英明の名曲の一つに勝手に数えています。

   まずストーリーがいい。旅立ちの前夜から当日の夜明けまでを歌っていて、旅立ち前の少しぴりっとした緊張感や、当日の朝の新しい旅への期待と高揚感がよく表れている。
   またCメロ(サビとほぼ同じですが)の「やがて君が目覚め背伸びをする頃 僕は遠い街で朝を見つめている」という歌詞も愛し合う二人の姿の対比がきれいです。

   それから、最初は否定的だった「ずっとずっとそばにいるからいいね」というサビですが、これもシンプルすぎていっそ潔くていいと思えるようになりました。
   たったこれだけの歌詞を微妙に形を変えて15回も繰り返していると、ラブソングに「そばにいる」以外の何が必要なんだ、というちょっと達観した気持ちになります。
   実際、何度も聴いていると不思議とクセになる歌詞とメロディなんですよね。「いいねえ えぇぇ」という歌いまわしが独特でいいのかな。

   あと、間奏とアウトロの演奏が美しくて好きです。夜明けの空を飛んでいるような気持になります。

   ところで、この歌が出た当時、サビの「そばにいるからいいね」の「いいね」はどういう意味だろうという議論が仲間内でありました。つまり、「そばにいれたらいいね」(good!)と言っているのか、「そばにいるからいいいよね」(OK?)と聞いているのかということですが。
    どっちなんでしょう。それとも両方なのかな。シンプルな歌詞ですがなかなか奥が深いです。

* * *
   以上、「bless」の感想でした!
   好きなアルバムなのでいつもよりも長めの記事なりました。

   次は「honesto」の感想を予定しています。