米澤穂信「王とサーカス」感想

   米澤穂信のミステリー「王とサーカス」を読みました。

   概要は……フリージャーナリストの「太刀洗万智」は海外旅行特集を書くためにネパールに訪れる。偶然にもその地で国王殺害という歴史的事件が勃発する。彼女は早速取材を開始するが、そこで死体に遭遇する……というお話です。
   文庫の解説に書かれている「何故何の権限もない素人探偵が殺人や窃盗の捜査にあたるのか」という疑問が、この小説の全て……とは言わないまでも半分くらいは語っていると思います。
米澤穂信「王とサーカス」(Amazon)

   文庫本で450頁のボリュームがあるうえに、舞台が日本ではなく海外の知らない土地のため状況描写に割かれる割合が多く、更に感情を抑えた淡々とした描写で話が進むため、初めはとっつきにくく感じるかもしれません。
   しかし、殺人事件が起きて物語が動き出す中盤以降は一気に読み進めることができました。
   特に主人公の太刀洗が殺人犯を探す動機を得る場面での、冷静な判断には感心させられました。
   そしてそれが、小説のラストの言葉にもつながっている。ただの殺人事件の話では終わらない深いテーマがあります。

   長編なうえにスロースターターなため、なかなか人には勧めづらいものがありますが、個人的にはその長さに見合うだけの読了感がありました。特にラストの言葉はグッとくるものがあります。
   書くこと・伝えることについて考えさせられましたし、未曾有の混乱のなかにあっても冷静なまなざしを持って判断することの大切さを教えてもらいました。

   また、異国の地が舞台ということで普段読みなれた日本とは違う空気感があり、読書中は日常から離れて、自分も外国を旅行しているような気分になれたのもよかったです。