スピッツの曲で一番好きなのは?と聞かれたら ~スピッツ「チェリー」感想 その1

   僕が二十歳前後のころは、初めて会った人と会話をしていてネタがなくなってくると「好きなアーティストは?」とか「最近聴く歌は?」という質問がよく出ました。
   もちろん好きなアーティストには「スピッツ」もしくは「徳永英明」と答えていました。

「スピッツ」と答えるとたいていその次に「スピッツのどの歌が一番好き?」と聞かれます。
   聞き手が特にスピッツのファンではなくてメジャーどころの曲しか知らない場合、この質問に答えるのはかなり至難の業です。

ファンでない人に好きなスピッツの歌を1つ答えるとしたら

「好きな歌はいっぱいありすぎて一つにしぼれない」と言ってしまうと、言葉のキャッチボールが終わってしまうので、それ以外を考えます。
   まず思いつくのが「御三家」と呼ばれている「ロビンソン」「空も飛べるはず」「チェリー」あたりを答えることです。しかしこれだとミーハーっぽいしつまらない。ファンとしてはもう少し自分らしさのある曲をアピールしたくなります。
   そうかといって「月に帰る」「プール」「君だけを」のような自分が好きなアルバムの曲を答えて「何それ?」と引かれるのも恐い。

   ではせめてマイナーなシングル曲を選ぶとしたらどうでしょう?「ヒバリのこころ」「日なたの窓に憧れて」「君が思い出になる前に」など。
   どれも聴けば良さがわかる(はずの)名曲です。でも相手がファンじゃないなら、アルバムの曲同様知らない曲であることには変わりありません。
   ならば、売り上げも多かった「空の飛び方」「ハチミツ」「インディゴ地平線」のなかからプチマイナーな曲を選ぶというのはどうでしょうか。'00年前後の時代なら、これらのアルバムを相手も持っているあるいは借りて聴いたことがある可能性は高いです。「サンシャイン」「愛のことば」「バニーガール」など。
   ……いやいや知っているつもりで曲名をあげておいて、相手が知らなかったらちょっと恥ずかしいものがあります。

   といった風に、好きな曲1つあげるにしても逡巡してしまいます。
   これが聞き手もスピッツファンだとわかっていれば「アルバムのあの曲もいいですよね」とマイナーな曲名をあげて盛り上がることもできて何の問題もないんですけどね。

そもそも好きな曲を1つ選べるのか

   聞き手がファンかどうかは置いておいたとしても、好きな曲を1つ選ぶということ自体がそもそも難しいです。
   どの曲も好きだから1つにしぼれない!なんてことではなくて、曲Aと曲Bのどちらが好きかを決めようにも良さが違うもの同士だと、優劣の基準がわかりません。スピードの速い方とかパワーの大きい方とか単純なスペックの比較なら楽なのですがそんなわけにもいきませんし。

   また時間や場所によっても「好き」は変わってきます。
   片思いの最中と、フラれたときと、投げたボールが向こう岸に届いたときとでは、良いと思う曲は違うはずですし、みんなでワイワイやっているときと一人旅で必死にペダルをこいでいるときとでもやっぱり違うでしょう。

   個人的には毎月あるいは隔週で、上位10曲を投票してそれを1年間繰り返して最もポイントの高い曲を好きな曲の第一位にする「オールタイム投票形式」がいいのではないかと思っています。
   何回も投票することで時間や場所による偏りが平準化されますし、10曲選ぶことにすれば血のにじむ思いで1曲にしぼる苦悩からも解放されます。

   こうして時間と回数をかけて選ばれた1曲は真の1番にかなり近いと思うのですがどうでしょう?……といいつつ、面倒そうなので実際にやったことはありませんが。

それでも1曲選ぶとしたら

   話が長くなってしまいました。問題は、初対面の人に「スピッツの曲で一番好きなのは?」と聞かれたら何と答えるか、でした。
   僕がここ十数年答えとして用意しているのは「チェリー」です。
   御三家から選ぶのはつまらないとか書いておきながら「チェリー」です。これはもう好きなのだから仕方がない。

   選んだ理由は、スピッツの様々な特徴が濃縮されているからです。そのなかでも一番大きな特徴は「派手さがなく地味なところ」です。
   どれくらい地味かというと、僕が初めて「チェリー」を聞いたときに、どこがサビかわからなかったくらいです。下手したら「どんなに歩いても~♪」のCメロをサビと勘違いしていたかもしれない。
   それくらいAメロからサビにかけてのラインが平坦で抑揚が無く感じられました。
   だけどその派手じゃないところがいい。スルメのように噛めば噛むほど味が出てきます。果物なのに海産物で例えるのは申し訳ないですが。

   なにせ飽きない。十代のときに自転車に乗りながらいつも「チェリー」をブツブツ歌っていましたが、20年経った今でも通勤途中に「チェリー」をブツブツ歌っています。
   華やかでもなければ、ガツンッとインパクトのある歌でもないので、色あせようがないのです。淡いパステル調のイメージのまま、心のわりと浅い部分にずっと居座っている。その場所は他のどの歌にも譲られることはありません。
   それが地味だからという単純な理由からなのか、別の魔法がかかっているのかはわかりませんが。

   ということで、スピッツの曲で一番好きなのは「スルメ」……じゃなかった「チェリー」です。これが僕の答えです。
   たぶんしばらくずっとこのままです。


「チェリー」は書きたいことがいっぱいあるのでたぶんあと2回くらい感想を書くつもりです。ーーしつこい?好きなんんで仕方ない!!