昭和9年大晦日に事件は起きる ~久生十蘭 「魔都」読書メモ1

   久生十蘭の「魔都」を読み始めました。
   久生十蘭は岩波文庫で出ている短編集を読んで好きになりました。「予言」「黒い手帳」が特に面白かったです。

「魔都」は文庫本1冊とはいえぶ厚く、ページ数が500頁超もあり、文字がびっしりと詰まっています。ボリュームがあるので長期戦で構えてのんびり読んでいく予定です。
   自分がストーリを忘れないために、忘備録も兼ねて読書メモを書いていくことにしました。
   ネタバレも含みますのでご注意ください。
久生十蘭「魔都」(Amazon)

連載長編 第一回

   マイナー紙「夕陽新聞」記者の古市加十(ふるいちかじゅう)は昭和9年12月31日に、銀座のバーで非凡の人相をもった怪人物と出会う。実は彼は安南国王の宗龍王であった。宗龍王は夕陽新聞がスクープして最近世間を騒がせている「日比谷公園にある歌う鶴の噴水」を見たいという。
   二人は日比谷公園の噴水を見に行き、その流れで宗龍王の愛人「松谷鶴子」の住むアパート有明荘を訪れる。加十はそこで夜食をごちそうになり宗龍王を置いて一人帰るが、アパートの崖の下まで歩いてきたとことで、崖の上から人が落下するのを目撃する。それは先ほどまでアパートで楽しく話していた「松谷鶴子」だった。

感想 講談調で言い回しも長いため、最初は読み進めるのに骨が折れたが、第一回の最後に衝撃的な殺人事件のシーンが描かれていたことで、一気に引き込まれた。誰が鶴子を殺したのか?なぜ殺されたのか?続きが気になる。

連載長編 第二回

   加十は落下した鶴子を背負い再び有明荘に戻る。しかしすでに鶴子は絶命していた。しばらくすると、警察が訪ねてくるが、すでに宗龍王は姿を消していた。それどころか、鶴子の部屋に3人でいた証拠が全く残っておらず、加十は殺人の嫌疑をかけられてしまう。
   翌日、加十は警察の署長室で目を覚まし、帝国ホテルへと連れていかれる。状況から、自分が安南国王と勘違いされていることを悟る。記者である加十はこの状況を利用してこの事件を夕陽新聞でスクープしてやろうと画策する。
   一方、夕陽新聞の編集長「幸田節三」は夕陽新聞の購読数を伸ばすため、元旦の9時12分に件の噴水の鶴が歌い出すと喧伝して日比谷公園に観衆を集め、大々的な集会を催していた。ところが、9時12分を20分過ぎても鶴は鳴かず、野次が飛び群衆が暴徒と化す。幸田が暴徒に袋叩きにされそうになったところで、鶴が歌い出す。

感想 あまり重要でないと思っていた噴水の鶴の歌がまさか大きく物語に絡んでくるとは!殺人事件とオカルティックな現象とがどうやって結びついていくのか!?見直してみると文庫の表紙にも噴水の鶴が描かれていますね。

連載長編 第三回

   登場人物が一気に増える回。殺された鶴子が住んでいた有明荘の住人達。警視庁の剛直な課長「眞名古明」。林コンツェルンの総帥「林謹直」。
   林謹直の会話から、噴水前の集会で幸田に襲い掛かったのは、林コンツェルンのライバルである日興コンツェルンの鶴見組であることがわかる。また、林コンツェルンと日興コンツェルンとはインドシナで利権争いをしていて、宗皇帝に取り入った林が優良なボーキサイトの採掘権を手に入れている。何かきな臭いものあり。
   事実を隠蔽しようとする上層部に対して、眞名古は辞表を出してでも事件を解明しようと動き出す。

感想 探偵役の眞名古の登場により、事件がかき回され、物語が一気に動き出す予感。盛り上がってきたぞ。それにしても登場人物がどっと増えて覚えきれるか心配。

   ここまで100頁。全体の1/5読了。独特の調子にも慣れて、むしろテンポよく読み進めていけてる。