退廃的な世界と鮮やかな逃走 ~スピッツ「虹を越えて」感想

「虹を越えて」はスピッツの7thアルバム「インディゴ地平線」の7曲目に収録されています。

   陰鬱でやや重めな雰囲気と全体に散りばめられたメジャーセブンコードがかもし出す非日常的なファンタジー感とが混ざり合い、ちょっと不思議な仕上がりの歌です。

   歌のなかで一番印象的なのは冒頭の歌詞です。「モノクロ すすけた工場で こっそり強く抱き合って」という歌詞からイメージされる退廃的な世界観がとても好きです。
   その後に「最後の雨がやむ頃に 本気で君を連れ出した」と続くので、十代のころの僕は、黒色に蝕まれていく”悪い世界”とそこから逃げ出そうとする”弱い僕ら”という対立構造を勝手に想像して、うっとりしていました。
   世の中は二元論で簡単に語れないと今なら言えるのですが、当時はこういうシンプルな対比にとても強く惹かれました。いつも何かに不満を感じていたんでしょうね。

   サビでは「虹の向こうへ……色になっていく……」と歌い、世界が鮮やかな色に染まっていきます。草野さんのハイトーンも伸びやかで気持ちがいい。
   Aメロの世界がモノクロなだけに、サビのカラフルなイメージが余計に映えます。虹を越えてずっと先まで行きたくなります。

   重い印象の「インディゴ地平線」のなかでは、「暗い」と「明るい」の中間、あるいはその両方を行き来している曲だと思います。

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   個人的なハイライトは最後のサビの「何もかも~」の「な」の音です。他よりも高い音で勢いよく入ってくるので、ぞくっとします。