夜明けの魔法 ~mol-74「Saisei」感想

「Saisei」はmol-74の7枚目のミニアルバムです。
   夜の色が濃い一枚です。「kanki」や「colors」ではなく、「越冬のマーチ」や「まるで幻の月をみていたような」に近い印象を受けました。
タワレコでもらったポストカード。裏面には「Saisei」のコードも。

   僕は「colors」でmol-74を知ったので、mol-74=colorsという先入観があったのですが、実際には、「越冬のマーチ」「まるで幻の月をみていたような」の方がmol-74の本質に近いのかなと思いました。「冬」「月」「夜」というイメージがよく合います
「Saisei」も美しいメロディと夜の歌詞とが相まって全体を冷たい空気が包んでいます。しかし、それでもアルバムのどこかしらに暖か味が残っていたり、かすかな希望を感じたりすることができます。
   重くなりすぎず、軽やかさをぎりぎりで残しつつ、夜寝る前に聴けるクールさと、ライブで踊りたくなる熱さを同時に備えている。ーーこのバランス感覚は、過去4作とも共通しており、mol-74の音楽の特長の一つだと思います。

   以下、簡単に各曲の感想です。

1.● (Fanfare)
「鮮やかな僕らの未来が溢れ出す」というフレーズが少しずつ形を変えて繰り返されるプロローグ的小品。全体的に暗めな曲が多いなかで、冒頭で「未来」を歌うことで、暗いなかにも光がさす。
   割り当てられた音楽プレイヤのマークは録音マークというのがなんとも意味深。これから辛いことがあっても大丈夫なように、未来があふれ出したときの感覚を覚えておこう、あるいは、これから始まる未来を胸に刻でいこう、ということなのかな。

2.▷ (Saisei)
   タイトルチューン。MVあり。
   イントロのごろんごろんとしたベース。新しい始まりを予感させるAメロ。ざくざくと突き刺さるようなドラム。疾走感のあるサビと儚いファルセット。澄んだギターの響き。どれもすっごく気持ちいい!暗く長いトンネルをいくつも通り抜けていくよう。
「夜明けの魔法を唱えるように 答えを失った僕が待っていた」というサビの歌詞が美しい。ぞくぞくする。「僕を」ではなくて「僕が」と歌っているのが、とても意味深。

3.▷▷ (夜行)
   2曲目に続きアップテンポな曲。サビが3回あり、冒頭の「間違ってしまったとして」のところの入り方が3回とも違うので、アレンジの異なる3種類のバージョンを聴いているような気分。
「真面目に生きすぎたみたいだ」という言葉が刺さる。詩も音もどれも気持ちよく、飛び跳ねたくなる。間奏も好き。

4.| | (Frozen Time)
   氷でできた部屋の中で、無数の氷細工に囲まれているような感覚。メロディはどこかふわふわとしていて、粉雪が風に舞っているよう。

5.◁◁ (瞼)
   意外とバラードらしいバラードはない気がするので、珍しいかも。本作のゆったりめな曲のなかでは一番好き。「寝顔も、笑顔も、優しい泣き顔も」というシンプルな歌詞を何度も繰り返すことで、そこに魂が宿る。ちょっと泣きそうになる。
   何かと似ているという書き方は失礼なのだろうけれど、スピッツの「楓」のようなイメージあるいは位置づけの曲な気がする。いや、全然似てはいないんですけどね。

6.□ (StarT)
   タイトルは「スタート」なのに停止マーク。たまたまこの記事を書いている今日が大雪のせいか、雪がしんしんと降っている夜の道に一人取り残されたような気持ちになる。
   あえて希望をしめだしたような歌詞だからこそ、未来を強く願ってしまう。最後の言葉は「夜は、明ける」ーーだけど、夜明けが訪れたとして、そこには何が待っているのだろう?


   アルバムを何回か聴いて感じたのは、これは夜から夜が明ける手前までを歌っているアルバムだということです。朝の光が差し込む前に歌は終わります。
   朝は本当に来るのか。来たとしてそれはどんな朝なのか。それはこのアルバムを聴いている僕たち一人一人がみつけるものなかもしれないし、あるいは次のアルバムで示されるものなのかもしれない。良い意味で不安を残すような、次を期待したくなるような余韻のあるアルバムだと思いました。

   ということで、mol-74らしく、透明感があり、メロディ良し、歌詞良し、サウンド良しの良盤です。ただアップテンポな曲が②③の2曲しかないのが惜しい。もっと弾けたい!という物足りなさが少し残りました。
   おすすめは②③⑤です。特に②「Saisei」は名曲。mol-74をまだ聴いたことがない人はこのアルバムから入っても問題ないと思います。ぜひ!

2018年02月に聴いたCD
mol-74「Saisei」

mol-74「Saisei」(Amazon)
   2018年1月発売。全6曲収録。