スピッツ「フェイクファー」アルバム感想

「フェイクファー」は1998年3月に発売されたスピッツの8枚目のアルバムです。
   このブログで紹介するアルバムもついに最後の一枚になりました(’17年9月現在)。ラストを飾るにふさわしい素晴らしい名盤です。
スピッツ「フェイクファー」

初めて新譜で買ったアルバム

   僕が初めて発売前にお店で予約して、初めて新譜で購入したスピッツのアルバムが「フェイクファー」でした。つまり、「フェイクファー」は自分がスピッツを好きになって(=ファンになって)初めて買ったCDなのです。
   そんなわけで、「フェイクファー」にはものすごく思い入れがあります。発売を待ちわびて待ちわびてやっと当日が来て手に入れて、だけどたまたまその日が飲み会の日で、お酒は飲みたいけど早く帰ってスピッツを聴きたいというジレンマに悩まされながらも、酒精の誘惑に負けて恋の話に胸を痛めながら明け方まで飲みまくって、翌日、二日酔いと睡魔と戦いながら、自分の部屋のステレオの前で正座して、買ったばかりのアルバムを聴いていたのだけれど、「楓、ええ曲やー」と涙ぐんだところまでが限界で、結局睡魔に負けて6曲目で一時停止して倒れて眠った、というのが「フェイクファー」の一番最初の思い出です。19歳のことでした。え。

   ちなみに、予約したお店は今は無き「ヤマチク・109店」です。僕と同じ世代で石川出身の方なら、なつかしいと思う方も多いのではないでしょうか。地元では老舗の音楽ショップでした。CDを予約するとポイント券の「びすか」が2倍か3倍でもらえるという特典がありました。

期待したのは優しい世界感と激しいロック

   スピッツのファンになったきっかけが何だったのかは忘れてしまいましたが、理由の1つとして覚えているのは、あるとき「バニーガール」「トンガリ’95」「crispy!」などアップテンポな曲や激しめの曲にも良いものが多いと気づいたことです。「あれ?スピッツ、ロックじゃん」みたいな。
   なので、新しいアルバム(フェイクファー)にも、スピッツらしい優しくて切ない世界観と、激しいロックの2つを期待していました。アルバムの数か月前に発売された「運命の人」が明るくポップでギターも力強かったので、いい感じで2つの要素が混ざってくれるんじゃないかと、かなり期待大でした。
   結果はどうかというと……

スピッツのアルバム史上最高の傑作だ!!しかし、

   聴いてみると、ほとんど完璧と言っていいくらい自分が思い描いていた通りのアルバムでした。
   優しさと切なさ担当として、「冷たい頬」「仲良し」「楓」「謝々!」「スカーレット」があり、激しいロック担当として「センチメンタル」「スーパーノヴァ」があり、その中間役として「運命の人」「フェイクファー」がある。短い小品の「エトランゼ」、変拍子の「ただ春を待つ」、のんきな「ウィリー」も良い息抜きになっています。
   手書きの歌詞カードも素敵ですし、そして何より、ジャケットの女の子がかわいい!

   ということで、これはスピッツの最高傑作だ!と一回聴いただけで確信しました。買った日からずっと何度も何度も繰り返し聴き、心をぶるぶる震わせてました。たぶん、スピッツのなかで自分が一番リピートしたアルバムだと思います。

   しかし、不満がないわけではありません。100%にはやはりちょっと足りない。
   足りない1つは、ロック成分が少ないということです。「センチメンタル」「スーパーノヴァ」だけでは物足りなかった。もっと激しくてライブでノリノリになれる曲が欲しかったです。
   もしもそういう曲が1曲追加で入っていれば、もっと良かったのに!と思います。(わがまま?贅沢ですかね)

   もう1つは、音が弱いと感じたことです。優しすぎるというか、もやっとしているというか。もっとガツンと来るサウンドを期待していたので、それがちょっと不満でした。
   のちのち、スピッツ本(旅の途中)を読んでみると、この時期にスピッツのメンバーが音作りに悩んでいたことが書いてあったので、自分が感じたものがメンバーのそれと同じかはわかりませんが、自分のなかでは、何かしっくりくるものがありました。

   それから10数年経って、リマスタリング盤の存在を知り購入しました。リマスタリングされた「フェイクファー」は音が少しクリアになっていて音圧も高く、自分が不満と感じていた部分が少し解消されたように思います。

10代に聴くことの大きさ

   僕が「フェイクファー」を聴きこんでいたのは10代最後の年でした。ちょうど長い片思いをしていた時期でもあったので、それが歌の詩なのか自分の感情なのかが切り分けられないくらい、スピッツの世界のなかに自分の日常がどっぷりとつかっていました。
「フェイクファー」は僕の個人的な事情など関係なく名盤だと思うのですが、それでもやはり、本当の恋をしているときに聴いた恋の歌の意味は大きかったと思います。
   タイミングが上手く合っていたということもあって、僕のなかでは「フェイクファー」が一番好きなスピッツのアルバムです。
   10代のころに出会えた音楽というのはやっぱり特別だなぁとつくづく思います。
スピッツ「フェイクファー」(Amazon)

   おすすめは、いっぱいあるのでしぼるのが難しいですが、あえて3つ選ぶなら、「スーパーノヴァ」「仲良し」「フェイクファー」かなぁ。シングル曲除くで。