スピッツ「サンシャイン」感想

  5thアルバム「空の飛び方」の11曲目に収録されています。
   メロディが美しく、歌詞も綺麗で、サウンドはギター中心に成り立っていて、スピッツらしさを集めたような曲です。独特な雰囲気と不思議な響きがあり、このアルバムのなかでは1,2位を争う好きな曲です。

  冒頭にスピッツらしいと書きましたが、一方で最初に聴いたときからスピッツらしくない印象も受けていました。
  この「らしくない」理由の一つは、歌のストーリや場面がはっきりしていることにあるのではないかと思います。
  スピッツのアルバム曲は何のことを歌っているのかよくわからないものが多かったりします。しかし「サンシャイン」は、登場人物が十代の男女二人で、女の子の方が生まれ育った街を離れて都会に旅立っていく別れの歌だとすぐにわかります。(聴く人によって設定はちょっと違うかもしれませんが)
  また、メタファー(比喩)も、ネム様ロケット全噴射で宇宙に飛んで行っているようなぶっとんだものはなく、シンプルですっきりしています。(もしかしたら気づいていないだけで、ものすごくディープな比喩もあるのかもしれませんが)
  あと、あまりエロくない。

  歌がぶっとんでなくてエロくないからスピッツらしくない、というのもどうかと思うのですが、「空の飛び方」のなかでは、とても好きな曲です。これからどこが好きか、つらつら書いていってみます。

  まずこの歌に歌われている男の子と女の子の関係性が好きです。「困らせたのは君のこと なぜか眩しく思えてさ」という歌詞。男の子の方が女の子の方に憧れていて、だけど高嶺の花ってほどでもなく、普通に話したり、困らせたりできる間柄というのが、若い頃の自分には理想に思えました。(女子とつきあったことなかったですから)
  次に、田舎から都会に旅立つというシチュエーションがいい。「白い道」という歌詞から雪の残った山村を、「大きなバスで君は行く」から、乗客が一人か二人しかいないローカル線の古いバスを想像します。ひと気のない鄙びた田舎のバス停で「さよなら」をする二人の姿が映画のワンシーンみたいです。
  そして、この歌の女の子はきっとかわいい。男の子から「変わらず夏の花のままでいて」と思われているんだから、ひまわりみたいな明るい純粋な子なんだと思います。

  それにしても、「サンシャイン」の歌詞は何度読んでも素敵です。上に書いたようなストーリや設定もそうなのですが、言葉のひとつひとつが丁寧に世界観を積み上げていっている。
  1題目の「よみがえる埃のつぶたちを残らずに見ていたい」と、2題目の「散らばる思い出を始めから残さず組み立てたい」が対になっていて、埃のつぶが思い出の比喩になっていたり。
  また、開けたのがただの窓ではなくて、「すりガラスの窓」というのも、独特だけど斜め過ぎないチョイスで印象的です。(すりガラスが何の暗喩なのかも考えさせられてしまう)
  でも一番好きな歌詞は先にも書いた「変わらず夏の花のままでいて」ですかね。男のわがままなのかもしれませんが、好きだった女の子にはそう願ってしまいます。
  まあ、自分の目の届かない都会で自分の知らない女性に変わらないでくれって言うのは、呪詛に近い気もしますが。

* * *
  懺悔の気持ちもこめて最後にひとつ。むかし、クラスの卒業旅行のときに、片思いの女の子に手紙を添えて「空の飛び方」のアルバムを手渡したことがあります。そしてその手紙の最後に「変わらず夏の花のままでいて」という言葉を引用して書いたのでした。呪詛だった!!
  今思うと、なんて迷惑なもの渡したのだろう、ごめんなさい。(その子からは後日、優しい手紙をもらいました。ええ子だ。)

  この恥ずかしい記憶を教訓として自分の息子たちには、卒業する前に醜くじたばたしないで済むように指導(?)していきたいと思います。普段から女の子とは仲良くして、ちゃんと告白してつきあえるようにがんばって関係を築いていこうねって。おしまい。蛇足でした。