スピッツ「未来コオロギ」感想

  14thアルバム「小さな生き物」の1曲目に収録されています。
  懐かしいような新しいような不思議な印象の曲です。

  イントロを聴いた瞬間に何か新しいことが始まる予感がしました。そして、草野さんの紡ぎだす世界に滑り落ちていくようにいっきに引き込まれていきました。

  大仰に語りかけてきたりはしないけれど、スピッツには珍しく、メッセージ性の強い歌だと思いました。「僕の」ことでも「君の」ことでもなく、ステレオの向こうで耳をすましている「君」(私たち)に向けて歌っているように聞こえます。

  また、マイナー調で抑えめのテンションのなかにも、強い意志が感じられます。特にサビの歌詞が力強い。「知らないだろうから ここで歌うよ 君に捧げよう」「消したいしるし 少しの工夫でも 輝く証に変えてく」
ーーって、切り出してみたら、「ここで歌うよ 君に捧げよう」って台詞なんかかっこよくないですか!?スピッツじゃないみたいです。(言い過ぎました)

  そして、Cメロの「でも最後に決めるのは さっきまで泣いていた君」という歌詞。いつもは君の方が強くたくましくて、弱い僕が引っ張られているという構図なのに、ここでは初めて(?)、僕が君と対等か先輩くらいになってる。あるいは、ここの「君」も聴いている「私たち」のことなのかもしれません。
  どちらにしろ、これまでと違う新しいスピッツを感じました。

  そんなわけで、1曲目から今までにない強さを感じるアルバムなのですが、それでも「さざなみCD」や「とげまる」よりも「小さな生き物」の方がネガティブというか湿った暗い印象があります。なんでなんだろう。
「未来コオロギ」の場合だと、音がやわらかいから?始まりがマイナーコードだから?あるいは「コオロギ」という生き物がかよわいから?
  この「強さ」と「暗さ」(あるいは「弱さ」)という一見ばらばらな性質が織り交ざっているところが、この歌(やこのアルバム)の強味なんだと思います。初期のスピッツと「三日月ロック」以降のスピッツとが同居しているような感覚。

  そんな「未来コオロギ」のなかで一番好きな歌詞は2題目のサビです。特に「堕落とされた実は優しい色 やわらかくすべてを染める」。それがどんな色なのかはわからないけれど、ふてくされて引きこもってた学生時代にこの歌と出会っていたら、きっとこの部分ばかり聴いていたと思います。なんか、受け止めてもらえた気がするから。

 最後に。ピコピコしたキーボードとギターのコード弾きとがからみあったサビの部分の演奏が気持ちいいです。草むらに隠れているムシたちの澄んだ鳴き声のような。じわじわと気持ちを上げていってくれます。
  ベース、ドラムもふくめて、ほんと演奏すごいなぁとあらためて思いました。さすがのキャリアです。