スピッツ「醒めない」感想

   15thアルバム「醒めない」の1曲目に収録されています。
   タイトルチューンであり、オープニングナンバーであり、同時に、これからのロックバンド・スピッツの進む方向を高らかに歌う宣誓文にもなっています。

「醒めない」はサビの歌詞に全てが集約されています。
「まだまだ醒めないアタマん中で ロック大陸の物語が / 最初ガーンとなったあのメモリーに今も温められてる」ーー初めて音楽を知った少年時代のロックの衝撃から醒めることなく、しかも、そのロックの記憶が今も自分たちに熱を与え続けてくれている。
   そして、「さらに育てるつもり」と歌は続きます。まだまだこれからもロックの未知の地平を開拓していくぜ!突き進んでいくぜ!っていう宣言ですよね、これって。かっこいいです。

   また、Cメロでは、「見知らぬ人が大切な人になり」と、長い時間の経過を思わせる歌詞が出てきます。馴れ初めがあり、恋人として付き合いだして、それなりのドラマをいろいろ経て、結婚して、やがて子供も生まれ、守らなきゃいけない家族ができて……そんな10年、20年という長いスパンを感じさせます。(と思うのは自分も年を取って子供ができたからかな)
   同じようにスピッツというバンドも長い年月を積み重ねて、30年近く経つわけですが、それでもまだまだこれからだ!と言えるのが素晴らしいです。ほんと、少年のままだなぁと思います。

   最後のサビでは「さらに育てるつもり 君と育てるつもり」と歌い上げます。この「君」がこの歌を聴いている僕らのことをさすなら、きっと、ただ受け身で聴いて終わっちゃいけないんだと思う。
   いつまでたってもスピッツは変わらずすごいなぁ、だけじゃダメで。「醒めない」を聴いた僕らもほんとは熱に冒されないといけない。たくさんのエネルギをもらったのだから、もっとロックに人生を投げ出したっていいはずです。

   さあ、埃をかぶったギターを取り出し、マイクを握り、ドラムスティックを叩きつけ、「ロックだ、バカヤロー!」って叫ぶんだ。
   左指先の皮膚はまだ固いか?赤ちゃんみたいにふにゃふにゃになっていないか?せめて、毎日アルペジオの練習しようぜ。ギターの弦の替え方忘れちゃったとか情けないこと言うなよ。

   そんなことを思って「醒めない」への(自分の)気持ちを裏切らないために、たまにギターの練習を思い出したようにやってます。でも難しい課題を継続して取り組んだりしないので、20年近くギターを触ってるのに、高校生が3か月みっちり練習したよりも下手なことしかできません。

「醒めない」の熱は結局、ブログを書くという行為に飛び火しました。全然ロックじゃないけど、新しいことを始められたし、スピッツに毎日触れているような気分になれるから、まあこれはこれでいいのかな。ロックじゃないけど。

* * *
 最後に「醒めない」と同じく、音楽に対する熱いエネルギーや強い思いを感じられる作品を2つ紹介します。

   1つはザ・ハイロウズの「十四才」です。
   語るように歌うロックナンバーなのですが、最後のところでレコードプレイヤーが少年に語りかけてくるという形で、次の台詞が出てきます。「いつでもどんな時でもスイッチを入れろよ そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ」
   まさに、十四才のガーンとなったメモリーってわけです。ヒロト、かっこいい。

   もう1つは村上春樹の「村上ラジオ」というエッセイ集のなかの「トランジスタ・ラジオ」というエッセイです。
   「音楽っていいですね」という話なのですが、そのなかに素敵なフレーズがいくつも出てきます。その一つを紹介すると、「そしてマルコ・コーガンの古い歌をどこかで耳にするたびに、11歳の少年の感じた風のそよぎや、甘い草の香りや、夜の底知れぬ深さが、刻明によみがえってくる」ーー自分にとっても音楽は、そしてスピッツの歌はそういう存在だと思います。
   スピッツを聴たびに、(それは2種類の場合があって、1つは現在進行形で、もう1つは過去に戻っていく感じで、そして後者のときに)十代のころの楽しかったことやよくわからん痛みや苦しみを思い出し、くすぐったくなったり、悶えたり、たまに熱をもらったりします。
   ……ずっと醒めないでいたいです。