完結!「妹さえいればいい。」感想 〜最高に熱くて笑えるラノベ作家の青春群像劇

   平坂読「妹さえいいればいい。」が14巻で完結しましたので、感想を書きます。

   普段はラノベは読まないのですが、このシリーズはタイトルが妙に気になって試し読みしてみたところ、ドハマリし、当時の既刊の3巻までいっき読みしてしまいました。
   その後も新刊を待ちわびて、毎回笑ったりホロリとなったりしながら、全巻読了しました。

   どんな小説かというと、
   妹モノの小説ばかりを書いている奇才のライトノベル作家「羽島伊月」と、
   天才売れっ子作家だけど家では全裸の「可児那由多」(伊月が好き)と、
   まわりの天才たちと自分を比べて悩む女子大生「白川京」(伊月が好き)と、
   計算と理詰めで物語を作っていく秀才肌の「不破春斗」(京が好き)と、
    伊月の義弟(実は女の子)の「羽島千尋」の5人をメインキャラにして、
   わちゃわちゃしながらも、それぞれがそれぞれの主人公を目指す、ラブコメかつまんが道な、青春群像劇です。
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魅力的な登場人物と成長物語

「妹さえいればいい」のどこがいいか?
    まず登場人物がみんな魅力的です。
    個性がある。そして悪いやつがいない。みんな幸せになることを願ってる。根のいいやつばかりです。
   
   特に、2巻で春斗の小説のアニメ化が失敗に終わったときに、京が「頑張ったけどダメだったら悲しいってことぐらい、わかります」と言って泣いたシーンはうるっときました。優しい。

   だからといって、ただ平和なだけのヌルい世界というわけではありません。
   うまくいかない片思いや複雑な恋愛模様もあります。
   また、売れてなんぼのラノベ界を舞台にしているわけですから、みんな良い小説を書くために必死です。
   悩んだり、妬んだり、壁にぶつかったり。
   それでも、周囲の助力を得て、あるいは自らの力で、それぞれの壁を乗り超えて成長していく登場人物の姿を見ていると、自分も頑張ろうという気持ちになります。

主人公になりたい

   主人公の伊月は妹モノばかりを書く変態(奇才?)作家ですが、昨今のラブコメに見られる鈍感系主人公ではありません。(たまに鈍いところもありますが)
   小説に対する熱量は半端なく、少年漫画の王道のような主人公といった側面も持ち合わせています。

   特に3巻に出てくる伊月の「主人公になりたい」という台詞はグッときました。青臭いけど、かっこいい!
   この「主人公」というキーワードが実はこの小説の大きなテーマです。「妹」がテーマに見えるのはフェイントで、実はこっちなんですねー。
   こんな冷めた時代に、「主人公になりたい」って熱くないですか。でも、それがいいと思います!

物語のポイント

   作中に美味しそうなビールや、楽しそうなボードゲームや、笑えるシモネタがいっぱい出てきますが、物語の主軸は伊月の作家としての成長です。ここがブレないのがこの小説の良いところです。
   その成長物語に華を添えるように、伊月、那由多、春斗、京、千尋の恋愛模様が描かれています。
  さらに、わけあって、女の子であることを伊月に隠して弟としてふるまっている千尋の存在が、物語前半の良いスパイスになっています。

   そんなわけで、物語のポイントは3つです。

1.主人公伊月は天才那由多の小説を超えることができるのか
2.春斗、京の恋はどんなラストを迎えるか
3.千尋はいつ妹であることを伊月に打ち明け、それがどんな変化をもたらすか

   毎回これらのポイントに注目して、伊月の成長に熱くなり、春斗の恋の行方にもやもやし、千尋のカミングアウトがまだかまだかとハラハラしながら、最初から最後まで楽しく読むこができました。

「主人公になりたいって台詞いいよな」「すぐそばに仲間がいるのって素晴らしい」「妹最高」そんな気持ちになりました。

義妹・千尋がかわいい

   ちなみに、自分が一押しのキャラは千尋です。
   男の子のふりをしていたり、弟から妹になるシチュエーションだったり、微乳だったり、自分の好みの属性てんこもりです。
   スポーツ、勉強、家事すべてが万能なんだけど、特殊な家庭環境で育ったため、恋愛に疎いというのもまたいいです。(ピュアだけど計算高いというのがまたなんとも)
   イラスト担当のカントクさんもたぶん千尋好きですよね?あとがきでひしひしと伝わってきます。

   そんな千尋が表紙の巻を一冊選んでみました。
   こちら↓
「妹さえいればいい」11巻(Amazon)
   ちょっといろいろあって、父と兄を叱っているシーンです。このときはすでに兄に女の子であることを告白したあとなので、ラフですが女の子な格好をしてます。
   怒っているところもかわいいのです。

魅力的なおじさんが出てくる物語

   上にあげた主要5人以外のサブキャラもみんな魅力的です。

   特に中堅作家の「海津真騎那」が好きです。凡人の希望として描かれていて、後半に行くほど味が出てきます。
   おじさんを魅力的に描けるのは才能だと思います。そして、魅力的なおじさんが出てくる物語に外れはないのです。(羽海野チカのハチクロや3月のライオンのように)

   そんなわけで、興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。
   ラノベだからと言って文が読みづらかったり、文章がスカスカということはなく、軽快だけどしっかり頭に残る文体だと思います。