スピッツ「遥か」感想

  10thアルバム「三日月ロック」の10曲目に収録されています。
  僕が社会人になって初めて発売されたスピッツのシングル盤でもあります。(2001年5月発売)

  「遥か」の発売を雑誌かネットで知ったのはまだ学生のときで、そのときは、早くスピッツの新曲を聞きたいけれど、社会人にはまだなりたくないという、不安で複雑な心境でした。

  4月になり会社に入ると、生活は一変し、仕事に忙殺される日々が始まりました。
   何もわからない新人のくせに青臭いプライドだけは高かったので、先輩社員についていこうと、毎日必死にがんばりました。とはいえ、何年も仕事をしている先輩に適うわけもなく、心身ともにヘロヘロの毎日が続きました。
  上司には、新人が「わかりません」と言って仕事を聞けるのは7月までだと言われていたので、夏までにはもっとできるようになっているはずだ、なっていないとダメだと思いながら、春から初夏の新人時代を過ごしました。
  そんなわけで、「遥か」の冒頭の「夏の色に憧れてたフツウの毎日」という歌詞を聞くと、成長しているはずの「夏のオレ」を信じて(妄想して)がむしゃらだった、ヘロヘロの新人時代を思い出します。
  この時期の一日一日ってほんと長くて密度が濃かったですからね。4月からたかだか3,4か月なのに、夏が遥か遠くに感じられました。

  他の歌詞を見ていくと、「思い出からつぎはぎした悲しいダイアリー」というところで、片思いで終わった大学時代の女の子のことを思ったり(結局それから会うことはありませんでした)。「君とめぐりあってもう一度さなぎになった」という歌詞に、新しい恋を期待してみたり。わりと勝手に自分を投影して盛り上がってました。

  また、サビは「すぐに飛べそうな気がした背中」「夢から覚めない翼」という具合に体言止めが連続しているのが印象的です。空中に浮かべた二分音符の上をぽんぽんと飛んで渡っていくようなメロディも気持ちいいです。けれど、ゆらゆらしていて、決して安定した飛行じゃない。聴いていると不安な気持ちに包まれます。
  この不安な感じは、マイナーコードで終わっていることによるのかもしれませんが、飛べそうだし、夢から覚めてもいないけれど、決して飛べてるわけじゃないところからも来ているように思います。「仰ぎ見る空」といっているから、空じゃなくて地上にいるんだろうし。

  それにしても、「背中」に着目する草野さんはすごいですよね。たしかに、空を飛ぶ翼があるためには、 翼が生えるための背中が必要ですもんね。
「すぐに飛べそうな気がした背中」ーー何回、口ずさんでも素敵なフレーズです。そして、女の子の綺麗な白い背中(というか、肩甲骨?)を想像すると、ちょっとエロチックです。

「遥か」が世に出てから15年以上経ちましたが、今でも帰り道に自転車に乗りながら、よく歌ってます。発売当時はスピッツの普通の良曲だと思っていましたが、じわじわと浸透していくタイプの名曲だったんですね。